剣精の修行 -5
「残るは、後ろにかわすと、横にかわすか。この二つは、いいだろう。ただし、バックステップよりはサイドステップがベターだな」
「それは・・・」
何故ですか、という言葉を、ぐっと飲み込む。
剣精は、明らかに研究と思考を持って戦っている。きっと、僕も頭を使わなければいけない。
「距離が遠ざかるからですか」
剣精が、うん、とうなずく。嬉しかった。
「それもあるな。さらにいうなら、攻撃に転じやすいのは、サイドステップの方だ。特にレイルは、ナイフを使うのなら接近戦に持ち込む必要があるから、相手の攻撃をかわしつつ、サイドステップを使って距離を詰めるのが戦闘のカギとなるだろう」
僕の武器はリーチが短い。大黒猿の時は、相手が無手だったから接近戦になったが、武器を使う相手だと、距離を取られたまま何もできないで終わる可能性がある。ラストさんが「間合いを選ばせてやる」と言ったのは、そのことだったのか。
「人間は、後ろに下がるよりも前に進むほうが早いからな。攻撃をバックステップでかわし続けると、いずれ必ず追いつかれる」
「確かに・・・」
「よし、理屈はだいたいわかったな。それじゃ、教えたことを考えながら動いてみるか。男の子だからな、勉強より、チャンバラの方が好きだろう」
「は、はい」
そこからは、先ほどまでの授業のような理屈の説明から、一気に実戦形式になった。やや速度を上げた剣精の連撃を、なるべく教わった通りに避けるようにする・・・というより、避けるのに必死で、ナイフを体より前に出せない。
「理屈がわかっても、体が覚えるまでには長い時間がかかる。無意識に教えたとおりの動きをできるようになるんだっ!」
そう言って、剣精は笑いながら剣を振り続ける。剣を振っている間は終始ハイテンションで、ごくまれに僕がいい動きをすると、とてもいい笑顔になる。僕は、その笑顔が見たくて、必死に剣精の振り回す木刀をかわし続けた。
達人ともなれば当たり前の話・・・なのかどうかはわからなかったが、剣精の振る木刀は僕に触れる直前で止まる。寸止めでなかったら、僕はもはや原型をとどめていいだろう。髪だけが切っ先に当たっていたので、もしかしたら髪の毛が短くなっているかもしれない。
こうして、僕の特訓初日が終わった。
かわすだけの特訓を延々と繰り返し、気づけば明け方になっていた。疲労で足が震え、マナは空っぽになっていたが、疲労感よりも満足感の方が、大きかった。
「よし、今日はこのへんかな。そろそろ、SSLの持ち場に戻ったほうがいいだろう」
「・・・はい」
うっかり腰をおろしたら、立てなくなった僕は、荒い息のまま床に寝転がる。床には汗の染みが飛び散っていた。
剣精は、うっすらと汗をかいてはいるものの、疲労の色は見えない。
「明日も、夜間のアーツ審査の予定はない。また来るか?」
「はい」
剣精の差し出した手を取り、なんとか立ち上がる。
「よし、気を付けて帰れよ・・・あ、そうだ」
「なんですか?」
「私の教えで半人前になる前に、アーツの名前を考えておけよ」
「名前・・・?」
「アーツ・ホルダーは、自分の編み出したアーツに名前をつけられる。「浮き刀」とか、そういうやつだ」
「はぁ・・・」
「歴史に刻まれるから、よく考えて慎重にな」
そう言って、ニヤニヤと笑う。




