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アーツ・ホルダー  作者: 字理 四宵 
第一章 山岳の戦い
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山岳の戦い -3

後方の怒り狂った大黒猿が、絶叫と共にロープを揺らす。しかし、マナを巡らせた僕の足の指は、ロープを離すことなく、じりじりと前進を続けていた。ロープを揺らすのは、むしろ、結果的に他の大黒猿の足止めになっていたが、そのことに気づく個体はいないようだった。

対岸の杭まで、後数歩。


橋を渡り切ったら、ナイフを取り出し、ロープを切断するつもりだった。常時なら器物破損かもしれないが、緊急時だ。どうせ、元の道に、生きている人間はもういない。

父も母も、祖母も親戚の一族も、家畜も全てを大黒猿に一瞬で奪われてしまった。僕が住んでいた山は、被呪特区になるだろう。自然と共に生きていたという自負があった僕たち家族には、大変な不名誉だ。

だが、今は名誉よりも、生き抜かなくてはいけない。弟と共に、いつか再び山に戻るためにも。

ロープの終わりまで来た。ベルトからナイフを抜きながら、岸へ飛び降りる。足にマナを集中させていたので、着地もスムースだったが、一つ、気づいたことがある。


着地の音が、僕の他にもう一つあったのだ。


とっさに振り替えると、大黒猿が一匹。仁王立ちで、こちらをにらみつけていた。恐らく、ずっと僕を追い回していた個体だ。


「まいったな・・・」


優先順位は、明確だ。まずは何をおいても橋の両側のロープを切ること。大黒猿が何匹か、今もこちらに向かってきている。多対一になったら、絶体絶命だ。

だが、向かい合っている大黒猿が、それを許してくれそうにない。仲間を待つつもりはなさそうだが、今すぐにもとびかかってきそうだ。


僕は、弟を背負うために結んでいた紐をナイフで切った。僕が、12歳になった時に貰ったナイフは戦闘用のものではないが、僕が手入れを欠かしていないおかげでピカピカに光っていて、朝焼けに燃える故郷の山を映している。村のあったほうからは、いくつか煙が上がっていた。火事が起きているのだろう。


「おい」


ナイフの皮鞘を大黒猿に投げる。想定外のことだったのか、大黒猿は素直に鞘を受け取って、匂いを嗅ぎ始めた。

僕は大黒猿から目を離さないまま、こちら側片方のつり橋のロープを全て切った。橋は傾き、はずみで数匹の大黒猿が谷底へ落ちていった。

騙されたことを知った大黒猿が鞘を食いちぎると、大きく吠えた。

残るは、大黒猿の側にあるロープだけだ。僕は大きく息を吸うと、大黒猿の方へ駆け出した。

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