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アーツ・ホルダー  作者: 字理 四宵 
第四章 SSL
35/200

SSL -7☆

「大丈夫だよ、手加減するから。なんなら、間合いを選ばせてあげてもいいよ。ナイフ使い君」

「おい、その辺にしておけ」


ディランさんがラストさんの肩をつかむと、かすかに舌打ちが聞こえた。


「触らないでもらえますー?」

「もめ事を放っておくつもりはない」

「んー・・・武器を使えない万年笛番は、黙って見てたらいいんじゃない?」

「なんだと・・・?」

「なーんてね。冗談だよ・・・じゃなかった、冗談です。ディランさんのところには、怖い人がいるからね」


そういうと、ラストさんはディランさんの手を振り切り、足を引くようにバックステップをしていったん距離をとった。

危険な間合いが回避され、わずかに、場が緩和したその瞬間だった。

ラストさんは抜刀をし一気に距離を詰め、僕の喉元にサーベルを突き付けた。


「・・・!?」


冷や汗が背中を伝う。目線を外していなかったのに、まったく反応できなかった。


(今のは一体・・・?)


速度も動作も練磨されたものだったが、特別に反応できないものではなかったはずだ。それなのに、完全に虚を突かれたということは・・・


(何か・・・トリックがある)


ラストさんは、僕の表情を見て満足したようだ。僕の首から切っ先を外し、肩をすくめる。


「なーんだ、これに反応できないようじゃ・・・」


ラストさんはサーベルをくるりと回転させて納刀する。


「・・・期待通りだね」

「!?」

「どういうことだ」


ディランさんが声を荒げる。


「決まりきった話ですよ。人件費は限られてるんだ。こんなのを笛番から育てるくらいなら、うちのチームに人を割いてほしいって、要望を出そうと思って」

「彼の抜擢は、コボルさんの決定だ」

「ってことは、独断が過ぎたってことになるんですかねー」

「・・・人を育てられない機関に、未来はない。レイルは才能にあふれた人材と聞いている。お前がどう思おうと、時期尚早だ」

「大丈夫です。僕がこいつの分も成長しますから」


ディランさんとラストさんが言い合っている間ずっと、僕は今の技のことを考えていた。


「ディランさん」

「・・・なんだ」

「今のは・・・アーツですか?」

「んん? 今、その話する?」

「ディランさん、今のは有名な技ですか?」

「・・・すまない、俺は技やアーツには詳しくなくて・・・」

「ははっ。いかにも、笛番の素人コンビだね。弱い二人が相談したって、何も分からないんじゃないの」


僕は、ラストさんの台詞をほとんど聞いていなかった。バックステップなら、通常は上半身が後ろに下がる。それが、さっきは足を引くようなステップだった。

足を下げるようなステップ・・・そして、着地からの異常な速度。

僕は、ラストさんがバックステップから戻ったあたりの地面を見た。固く踏み固められた地面が、鋭くえぐれている。


「つまり・・・」

「ん?」


ラストさんが何か言いかける前に、僕は足を引くようにバックステップをしていた。ちょうど、さっきのラストさんと同じように。

片足が地面に着く瞬間、足のマナを発火させて地面を蹴る。途端に、全身に衝撃が走るが、勢いを殺さないように必死に姿勢を保持した。


「こうですか?」


僕は、ラストさんの目前に人差し指を突き立てていた。僕の後に着いた風が、僕を追い越していく。

自分のナイフを抜刀する暇はなかったが、恐らくさっきのラストさんと同じ動きをとれたはずだ。


「お前・・・この技を知っていたのか!」

「どうでしょう。そんなのは、どうでもいい話です。それより、ディランさんに言った言葉を、取り消してもらえませんか」

【名称】疑脚

【発案者】不明

【分類】歩法

【マナ使用部位】足

【難易度】やや低い

【使用条件】容易

【解説】

古くからある、公開されているアーツ。

着地した脚に即座にマナを着火させることで、強引に突進や方向転換ができる。

通常だと着地、膝のクッションを使って体重を吸収、筋力を使って移動というところを、硬球がはずむような、溜めの少ない動作で移動できる。

ラストとレイルが使ったのは反対方向に動く方法で、慣れない使い手は急激な方向転換のため首や関節を傷めることが多い。脚を引くようにバックステップをしたのは、上体が後ろに下がっていると首に負荷がかかりやすいからである。

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