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アーツ・ホルダー  作者: 字理 四宵 
第一章 山岳の戦い
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山岳の戦い-2

大黒猿が、ものすごい勢いで縄を渡って近づいてくる。殺意と狂気。そして喜びに満ちた双眸が、こちらを見ている。僕と弟の首をねじ切るのにためらいはなさそうだ。

このままでは、僕が渡り切る前に確実に腕をつかまれるだろう。

目測で向こう岸への距離を測ろうとした瞬間、別の大黒猿の絶叫が聞こえてきた。

僕は、意を決した。2匹に縄上で挟まれたら、待っているのは確実な死だ。陸にせよ、空中にせよ、多対一で勝てる相手ではない。

僕は靴を脱ぐと、ズボンの中に入れた。靴下は、まどろっこしいので谷底へ投げ捨てた。弟を背に抱えたまま、マナを足に集中させる。

目をつむり、全身の力を抜いて、足だけに意識を集中させる。ロープをつかんでいた手から握力が消え、全身のマナのほとんどが足に集中したとき、僕の背後の大黒猿が大きく振りかぶって僕を捕まえようと手を伸ばした。


その瞬間、つま先に蓄積したマナの力で、僕は垂直に飛んだ。突然の揺れに驚く大黒猿を目下に、僕は空中で体をよじって対岸の方を向き、ロープの上を走りだした。弟を背にしたまま、ただ前だけを見て走る。

ロープの上でバランスを崩した大黒猿だったが、太い腕でロープにぶら下がって、落ちる気配がない。怒り声をあげてロープを揺らすと、後ろの方で何匹かの悲鳴が聞こえた。急な動きでバランスを崩して、崖に落ちた個体がいるのだろう。

僕は、揺れるロープを足の指で押さえて走り続けていた。靴を脱いだのは、この時のためだ。足の指先にマナを集中させれば、山育ちの僕なら駆け足の綱渡りくらいはなんとかなる。

問題があるとするならば、背後から1秒ごとに濃く感じる獣臭だろう。マナの集中を切らさないために、背後を見ずに走っているが、何度か大黒猿の指先がかすっているかもしれない。弟の安否が気になるが、立ち止まるわけにはいかない。


対岸まで、後、数歩だ。街に続く道へ出れば、民家が点在している。助けを、呼べるのだ。

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