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アーツ・ホルダー  作者: 字理 四宵 
第三章 剣精とアーツ審査
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SSL -1

SSL事務所内。業務が始まる当日、僕は少し早めに出勤をして、ララベルさんにSSLの任務を教えてもらっている。


「まず、レイル君には笛番という任務についてもらうことになります」

「笛番・・・? ですか」

「そう。どんなに腕の立つ人間でも、その逆でも、まずは笛番なの。笛番は、SSLの中で一番大切な仕事と言っても、過言ではありません」


そう言って、ララベルさんはデスクの上に置いてあった白い笛を僕に渡す。


「はい、これ。吹いちゃダメだからね」


僕は渡された白い笛をまじまじと眺める。SSLの紋章が描いてあるほかは、特に変わったところのない笛だ。


「吹き方は、短く三回。ピッピッピッよ。何度も言うけど、吹いちゃダメだからね」

「はい、大丈夫ですよ」

「笛を吹くときは、応援を呼ぶか、非常事態で応援を呼ぶかの二通りです。笛番の人は、何か怪しいところがあったら、とりあえず笛を吹く! これだけでOKです」

「笛を吹いて、仲間を呼ぶということですか」

「そう。笛番の他に武器番と言われる人がいます。その人たちが駆けつけて対処するのを案内するのが仕事です。今日のうちの隊で言うと、私やジャヴ、コボル警備長は武器番です。コボル警備長は、警備長だから、事務局からは出ないと思うけど」

「なるほど・・・」


いたずらで吹いたらSSLの団員が集まるということか。それは叱られそうだ。


「夜勤の時も日勤の時も、SSLのメンバーはみんな笛を持っています。怪しい人や生き物がいたら、近寄って戦ったりしないで、笛を吹いて人数が集まるのを待つこと。これが、笛番のお仕事です」

「はい」

「目立って活躍する仕事じゃないかもしれないけど、みんなが怪我なく業務にあたるためには、相手に対して多対一で挑むのが原則で、その状況を保持するのが笛番の目的です。ここまでで、何か質問ある?」


かぶりを振る。ララベルさんの説明は、わかりやすかった。


「特に、レイル君は経験が浅いから、これは一人で行ける! って思うことがあるかもしれませんが、笛番は原則として戦闘禁止です。逃げるのが仕事だと思って、笛を吹いたら武器番が到着するまで逃げるなり隠れるなりしてください。相手が襲い掛かってきたら、逃げながら笛を吹いてください」

「ほかの人が笛を吹いたら、僕はどうしたらいいんですか」

「警戒をしつつ、その場で待機。応援に駆け付けるのは、武器番の仕事です。武器番を含む笛二つが同時に長く吹かれたら、警戒解除だから、それまで動かないでね」


そう言って、ララベルさんは自分の笛をかざした。僕の笛とは、少し形が違う。恐らく、音色も異なるのだろう。


「なるほど・・・」


僕は手に持った笛をもう一度見直す。わずか三回の笛が運命を分けるかもしれない。


「なんで、通常時には三回なんですか?」

「ええと、前は通常時で1秒、非常事態だと長い笛だったんだけど・・・ええと・・・」


そう言って、言いづらそうに言葉を選ぶ。・・・が、あまり上手くいかなかったようだ。


「要は、腕利きの相手だと、長い笛を吹かれる前に殺されちゃうからね」

「・・・」

「だから、短い1回でも長い1回でも緊急事態で、短い3回の時だけ通常の笛なの。よく通るだから、一回でも鳴れば聞き逃さないと思うよ」

「えっと・・・ここは、そんなに物騒なのですか」

「うーん、昔は平和な国だったらしいけど、『例の日』から急に人口が増えたからね」

「『例の日』って・・・」

「そう、『何もかもが変わった日』。私たちが生まれる前のことだから、よくわからないけどね」


僕が子供のころから、知識としては皆が知っているけど、誰もよくわからないという話がある。それが、『何もかもが変わった日』だ。

200年近く前に何か重要なことが起きたらしいのだが、僕たちは世界が変わってから生まれた人間だ。だから、父も母も、何が変わったのか、多くを語れなかった。今生きている人間には、変わる前の世界がどんな様子だったかわからないのだ。

ただ、変わる前の世界には、呪いがほとんどなかったという話は聞いたことがある。

現在、解呪が大きな産業になっているこの国の人口が大きく変わったのは、それが影響しているのだろう。


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