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アーツ・ホルダー  作者: 字理 四宵 
第三章 剣精とアーツ審査
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剣精とアーツ審査 -6

「いいです、か・・・うんうん。・・・えっなんでっ!」


断られると思っていなかったのか、剣精は驚いて聞き返す。


「・・・」


みっちり鍛えると言った剣精の目の輝きが、何か恐ろしかったことを正直に伝えたほうがいいのか、僕は一寸悩んだ。


「普通、剣精に稽古をつけてもらうなんてないんだぞっ! 貴重なんだぞっ!」

「・・・」


手をぶんぶんと振り、力説をする剣精。その様子からは、さっきまでの威厳に満ちた雰囲気は霧散している。


「アーツ・ホルダーになりたくないのか!」

「うーん・・・まぁ・・・なりたいですけど」

「よし、レイルの考えはわかった・・・そっちがその気なら、私は今すぐ君をアーツ・ホルダーに認めてしまうぞ」

「えっ!」

「一旗揚げようっていう雑魚たちが、四六時中訪れるんだ。ククク、君の腕で、しのぎ切れるかな・・・?」

「・・・!」


どうも、発想が悪人のそれだ。だが、今日、確かに僕は自分の未熟を思い知らされた。相手が剣精ではなかったら、僕の数少ない手札のアーツを使う間もなく勝負がついていただろう。ここは、素直に従っておくべきだと判断せざるを得ない。目が怖いのは見ないふりをしよう。


「わかりました、お世話になります」

「よし! そうこなきゃ!」


パアァッと表情が明るくなる。おもちゃの購入権を獲得した子供のようだ。


「でも、なんだって、そんなに熱心に・・・?」

「なに、最近は骨のありそうな素直なやつがいなくてな。審査をしても、すぐ尻尾を巻いて逃げ出すような奴が多くて、暇してたんだ。どうせ教えるなら、若いやつの方がいいし」

「はぁ・・・」


納得できるような、できないような返答だ。口には出さなかったが、ようするに、剣精は暇なのだろうか。


「それに、私に傷をつけそうになった奴は、久しぶりだった。見どころあるぞ、レイル」

「そうですか・・・」

「そうだとも。私ときたら、ここ十年ほど、審査中に傷一つ負ってないんだからな」


えっへんと、胸を張る剣精。その拍子に、ブラウスの前がはだける。僕のナイフは、わずかにボタンの紐を切っていたようだ。開けたブラウスから、胸元と臍が見える。


「・・・」

「・・・」


僕は、慌てて目をそらす。知らない女性の肌を、こんなに間近に見たのは初めてだった。


「み、見ろ! 肌は切れてないから! 服だけだから、な!」

「み、見ません! 見ませんから、しまってください!」

「ちゃんと見ろ! 私の名誉がかかってる!」


論点がずれている気がするが、慌てていたので気が付かない。


「あのー、そろそろ、時間です」


剣精が僕の瞼を力づくで開けようとしているとき、衛兵が広間に迎えに来た。僕と剣精が取っ組み合っているのを、不思議そうに見ている。


「う、うむ。えへん。レイル君、今日はこのまま帰っていいぞ。追って、SSL宛に書状が届く」

「えっ、剣精様・・・まさか、この少年が?」


話を聞いた衛兵が、目を見開く。


「慌てるな。彼が合格したのではない」

「は、はい・・・」


剣精は、涼しい顔で言う。僕も、何食わぬ顔をしておいた。万が一、衛兵が噂を立てたら、どこかで僕が狙われるようになるかもしれない。

衛兵は目を白黒させながら、僕と剣精を交互に見比べる。


「では、僕は失礼します」


シャツを着て、靴を履いて挨拶をする。剣精は、剣を担いだまま、ざっくばらんに手を振った。


「またな、レイル」

「はい」


こうして、SSLに続き、剣精への弟子入りも決まってしまった。剣精にまったく歯が立たなかったので、胸中は悔しいという感情が一番だったが、後から考えれば、とても幸運な出来事が続いていたのだ。

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