剣精とアーツ審査 -3
褐色の肌に、艶やかな黒髪。紫がかった灰色の目は、遠い国の出身をうかがわせる。
身長は平均的だが僕より少し高く、180cmほどだろうか。その美しさを際立ててるのは、つま先から背筋まで自然に伸びた姿勢の良さだろう。その立ち振る舞いと隙の無さが、身長を実際以上に見せている。
あのララベルさんが美しいと評したのも、無理なからぬことだ。
剣精が女性だとは思っていなかった僕は、戦意を忘れて見とれてしまった。
「どうした、怖気づいたか?」
声をかけられて、自分が戦いに来たことを思い出して、慌てて構えをとる。
「おお、よかった。戦意を喪失させるつもりはなかったんだ。さて・・・」
剣精はサッと僕の体に視線を走らせる。
「ふむ。我流だな。足腰は鍛えてあるようだが、プロに教えを受けたわけではない。腕に自信があって試練を受けに来るようなタイプではないから、目的は生活のためか、アイディアを実践してみたいか、かな」
驚きだった。剣を構えただけで、ここまで相手のことが透けて見えるものなのか。
「もし、何かの義務や肝試しで受けたなら、大丈夫だから帰ってもいいぞ。役人には、私から適当に言っておこう」
入口の衛兵と同じことを口にされて、僕は少し腹が立った。僕は、そんなに貧弱に見えるのだろうか。
「大丈夫です、やります」
そう言って、僕はナイフを前に突き出した。大黒猿に致命傷を与えた、「浮き刀」の構えだ。剣精が人を傷つけないというのなら、色々と試すことができる。
「浮き刀」は公表されているアーツなので、この技が通用してもアーツホルダーにはなれないが、まずは相手の反応をみられる。
剣を構えたまますり足で近づき、錯視を利用して一気に剣を突き出す・・・が、加速のついた剣戟は指先でつままれてしまった。手にマナを集めているのだろうが、突き出したナイフを指二本で止められるとは思っていなかった。
「古いアーツだな、まだあったのか」
大した興味もなさそうに言うと、ナイフを離す。見慣れたというよりは、見飽きたような表情だ。
「君の技は、それじゃないだろう?」
こちらを射抜く視線には、有無を言わさぬ迫力がある。僕は、飲み込まれるようにナイフを振り始める。
変則的なステップからの強襲、ナイフを逆手に持ち替えての回転切り、柱を使った三角飛び。
がむしゃらに、思いつく限りのことはやってみたが、どれも姿勢を崩すことすらできない。まるで通用しなかった。
「よし、だいたいわかった」
僕が肩で息をしはじめているのに比べ、剣精は涼しい表情だ。体力には自信があったのだが、空振り続きがこんなに体力を消耗するとは思っていなかった。
覚悟はしていたが、たとえ偶然でもかすり傷を負わせられるとは思えない。
・・・僕の底が知れたのだろうか、剣精は少し飽きたように見受けられる。
「そうだ。言い忘れていたが、何かシチュエーションの希望があれば、聞くぞ」
「シチュエーション・・・と、いうと?」
「相手が空中ではないと使えないとか、長剣を使う相手に有効とか、アーツも色々あるからな。可能な限りのリクエストには応えるよ。そのための武器庫だ」
親指で背後の武器庫を指しながら言う。
「まだ、目が死んでいないから、何か隠し持っているようだが・・・なんでも、使えるうちに使っておいたほうが、いいぞ?」
息が切れている僕を見て笑う。美しき精霊が、少しずつ正体を表し始めた。確かに、体力は有限だ。マナの集中が悪くなる前に、手を打つ必要がある。
「そちらから、打ってもらっていいですか?」
防御一辺倒・・・というより、受け流すだけのの剣精に、僕が言う。