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アーツ・ホルダー  作者: 字理 四宵 
第三章 剣精とアーツ審査
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剣精とアーツ審査 -2

試験当日。僕が持って行くのは、二本のナイフと決めていた。父親に貰ったものと、家の壁に刺さっていたもの。上手くいけば、今日の審査に重要な役割を果たすはずだ。両方をベルトに下げて、僕は寮を出た。

首都の道は計画的に作られていて、東西南北がはっきりしている。未だ不慣れな僕でも、教えられた道通りに進むことができた。神殿前に到着すると、強面のがっしりとした体の衛兵が槍を立てて睨みを利かせている。

時間前だったので路傍で待っていると、声をかけられた。


「君、神殿の見学かい?」

「いえ、アーツ・ホルダーの試練を受けに来ました」

「君が・・・試練を?」

「はい。レイルという名前で許可が下りていると思います」


衛兵が、僕の頭からつま先までをまじまじと見直す。


「友達に強制させられたとか、肝試しとかなら、言うんだぞ。結構多いから、そういうの」

「いえ、大丈夫です。僕は・・・」


僕は、自分がSSLの腕章を持っていることを思い出し、ポシェットから取り出して衛兵に見せた。


「それは、SSLの・・・!」


冷やかしではないことは伝わったのだろう。衛兵は表情を固くした。


「次の時間の予約の、レイルか?」

「そうです」

「そうか・・・アーツ・ホルダー審査が初めてなら、今のうちに説明をしてしまうこともできるが、どうする?」

「初めてです。よろしくお願いします」

「よし、まず、時間制限は最大で一時間だが、無理だと思ったら、それより早く出てきてもいい。珍しいことじゃないからな」


ジャヴさんは、全く歯が立たないわりに、一時間粘ったのか。それはそれで、すごいことだと思った。


「はい」

「剣精は制約により、人間を傷つけることができない。なんでもやりたいようにやるといい。武器は、剣精がいる部屋に立てかけてある。帰るときには片づけていくんだぞ」

「なんでも、やりたいように・・・ですか」

「大丈夫だ。何をしても、どうせ当たらないからな」


くだらない質問ととられたのだろう。衛兵は、にやりと笑う。


「それと、結果に納得ができなくて抗議をする奴がいるが、審査結果は覆らない。時間の無駄だだからやめておけ」

「わかりました」


審査の結果は、全て剣精に委ねられているらしい。確かに、人間には荷が重い仕事かもしれない。


「腕がいいやつがくると、剣精の機嫌がよくなる。冷やかしや身の程知らずがくると、その逆だ。お前さんは、頑張ってくれよ」

「そのつもりです」

「よし。少し早いが、進んでいいだろう。この先の階段を上ると、広間がある。まっすぐ進んだ入口に、剣精がいるから、話しかけるといい」


そういうと、槍を上げて道を開けてくれた。

古い時代の神殿なのだろう。石を積んだ階段は苔むしていて、ところどころがひび割れている。うっすらと湿気を帯びた山の冷たい風が、辺りを一層物悲しい雰囲気にしていた。

人の気配どころか、鳥の姿もない。ひっそりとした丘だ。こんなところに構える剣精とは、一体どんな存在なのだろうか。

階段を登り切ると、石造りの神殿の方から、変わった匂いがした。当時の僕は変わった匂いとしか感じなかったが、スパイスの効いた、異国のお香だ。

雪と山脈がシンボルのこの国では珍しい、エスニックな香りだった。

坂を上り終え、神殿の中に入ると、その天井の高さに驚かされる。僕が知らないだけで、由緒ある有名な神殿なのだろう。ただ、その造りの豪華さに比べ、飾り気は全くなく、武器や書物を収める棚が整然と並べてあるのは、神殿というより武器庫と言ったほうがしっくりくる。

武器などを最低限、雨風からしのぐ。そんな建物のようだった。


「よく来たな」


突然、後ろから声が聞こえる。背後というよりは、耳の中に声を入れられたような感覚だ。警戒をしていたはずなのに、まったく気づかなかった。

反射的に、飛び上がり距離をとる。空中で身を翻すと、くっきりとした人影が見える。


「はっはっは、驚いたか。なかなかいい脚力だな」


子供のように笑う、美しき女性。そう、剣精は女性だった。してやったりという顔で喜ぶ様は、まったく武人らしくない。

これが、僕と剣精の出会いだった。

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