剣精とアーツ審査 -1
「中央の広場からまっすぐ北に向かった方の丘に、さびれた神殿がある。そこにいる見張りに名前を聞かれるだろうから、それに答えて案内されるまま先へ進むといい」
山から帰った翌日。コボル警備長が、明後日のアーツ審査についての説明をしてくれている。
「必要な持ち物などはありますか」
「自分で武器を持って行ってもいいし、神殿内の武器を好きに使っても大丈夫だ。一通りは揃っているはずだ」
神殿というわりに、なんだか物騒な場所だ。
「皆さんは、試練を受けたんですか」
「ここにいるララベルとジャヴ、俺は受けているな。皆落ちたよ」
「だから、無理に受かろうなんて思わないで。緊張しないでいいのよ」
「一発合格なんてされると、俺様の肩パッドが狭くなるからな」
ジャヴさんが、棘のついた肩パッドを摩る。肩身が狭いということだろうか。
「皆さんは、自分の武器を持っていきましたか?」
「そうだな。俺はロングソード、ララベルは槍、ジャヴは戦斧だったな」
「あれ、ジャヴさんは武器を変えたんですか」
今ジャヴさんが使っている武器は、スローイングができる手斧だ。戦斧に比べると、一回り小さい。
「お、おう・・・まあな」
歯切れの悪い返事が返ってくる。
「コイツ、剣精様にけちょんけちょんのメッタメタにされて、説教まで受けて武器を変えたのよ」
「へぇ・・・あれ、でも剣精って人間に危害を与えられないんじゃ・・・?」
「手も足も出なかったんだよ! 一時間、片手一本であしらわれたの! メンタルな危害だよ、あれは!」
「それで、コイツなんて言われたと思う? 『お前は・・・』」
「あーあーあーあ! うるせー! 少年の憧れを奪うな!」
「いや、別に、憧れては・・・」
「えっ 嘘っ!?」
「なんで、レイル君があんたに憧れて当然みたいな考えになってるのよ・・・」
「よし、その辺にしておけ」
コボル警備長が雑談を区切ると、場は集中を取り戻す。
「このアーツ審査が終わったら、SSLとしての仕事が本格的に始まる。任務では最初は危険なことはさせないつもりだが・・・慣れないうちは色々大変だろうから、試練は怪我のないように終わらせればいい」
「・・・はい」
「おい、任務が始まったら、やっと腕章をつけられるな」
僕は、手に持った赤い腕章を握りながら、頷く。街の役所に身分証として見せたことはあったが、まだ実際の任務で腕章をつけたことがない。
皆は、僕がアーツ審査を受けるのはジャヴさんの妄言がカール少佐に信じられてしまったためで、仕方なく審査を受けると思っているはずだ。
僕は、自分が本気で審査を受け、技を見てもらおうとしていることは、まだ皆に言っていなかった。
僕が審査に受からなければ、コボル隊に何らかのペナルティが付く可能性が高い。皆もそれを頭に入れているだろうが、話題には上がらない。僕に気を使わせまいとしているのだろう。
「今日はこれで終了だ。明日は一応、アーツの練習日ということになっている。明後日は我々は一緒に行けないが、大丈夫だな」
「はい」
「繰り返すが、明日、明後日は怪我をしないようにな。本当の仕事は、三日後から始まるんだ」
ここの人たちは、僕をよく考えてくれている。
だからこそ・・・恩を返したい。僕は、誰にも見られないように、腕章を強く握る。