化け物退治 その3
最初に口を開いたのは、ウさんだった。
志位さん達の中で一番腕が立つというウさんは、口数が多い方ではない。特に興味のある話題ではなければ、普段はチームの中では静かにしていることがほとんどだ。物静かというよりは、興味がないというのが正しい表現なのだろう。ジュリアさんと似たような、むらっ気のある天才肌の人物で、強敵と戦えれば、どんな作戦でもあまり文句はないらしい。
そのウさんが、突然僕達を追い抜いて行進を制した。
「待て。嫌な予感がする」
その一言で、志位さんとサさんの表情に緊張が走った。二人とも、それほどウさんのことを信頼しているのだろう。
「何か、いるのか」
「……かもしれん。断言は出来ないが……何か、嫌な予感がする」
「うむ……お前の勘は当たるからな。レイル、お前たちも気をつけろ」
志位さんが言う。
「は、はい」
僕は辺りを見回したが、おかしな所はない気がする。山の中に吹く冷たい風と、それを受けて震える木々。押し黙った僕達の周りに、余計な音は殆どなかった。山育ちの僕が感じられない環境の機微を、ウさんはどのように拾ったというのだろうか。
「……」
一同が、緊張の面持ちで円陣を作る。志位さんたちと打ち合わせたわけではないが、ここにいる皆は武術の経験者だ。自然と隙のない形になる。
「なぁ、本当に……」
「待て!」
「!?」
ジャヴさんが口を開いた瞬間を、ウさんは制した。
その理由は、僕にも分かった。あるタイミングを境に、急にじっとりとした視線を体に感じるようになったのだ。
「これは……」
「我々が気づいたことを、気づかれたんだな。向こうも隠す気はなくなったようだ」
「しかし……」
眼球からは常に、わずかなマナが飛んでいて、人はそれを視線として感じることができると、剣精から聞いたことがある。だが、少なくともこの辺りに大きな生き物の気配はないように思われる。
視線の話が本当なら、この化け物というのは相当な距離から我々を見ていて、とてつもないマナの持ち主という可能性がある。
「随分と、嫌な気を発するな」
「あぁ。人間なら、確実に人殺しのものだ」
「性格悪いやつだな。僕にもわかるぞ」
志位さんたちが、姿勢を崩さずに会話をする。志位さん達は、僕たちよりも気配に鋭いのだろうか。得ている情報量は、単なる視線以上のものを受けているようだ。
「ウさん、視線の方向は、わかりますか」
ララベルさんが、尋ねる。
「いや……常に移動しているな。野生の勘というやつか、用心深いことだ」