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アーツ・ホルダー  作者: 字理 四宵 
何もかもが変わった日
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何もかもが変わった日 その7

と言ったところで、僕はこの旅の出発の時にジュリアさんと話したことを思い出した。


「それって、昔の馬が力が弱いと言っていた話ですか」

「うん、たぶん関係あるね」

「ん? どこかで聞いた話だな……」

「ジャヴさんが言ってたんですよ!」

「え? そうだっけ」

「……そろそろいいかの」


弓精が呆れた顔で声をはさむ。


「あ、すみません」

「……何もかもが変わった日から、百年ほどたった頃じゃ。人々が持ち直したのを確認したわしは、再び山にこもった。ちょうど、ここのような生活じゃな。新しく弟子をとる気も起きなかったわしは、畑仕事でもしながら、静かに暮らしていこうと考えておった」


あっさりと、百年という言葉が出てくることに、改めて驚かされる。


「その時には、もう大きな戦争は無くなり、兵器としての弓の時代は終わりつつあった。人々は、手に入れたマナを使って新しい技を編み出すことを始めていた。今で言う、アーツというやつじゃな。弓を習いたいという者は目に見えて少なくなっていったよ。

ある日、わしが日課の訓練をしている最中、弓を放って、気づいた事があった。いつもよりも数センチ、的がずれる。最初は風のせいかとも思ったが、もう一矢放って、何かがおかしいと気づいた。腐っても弓精じゃ。的を二度外すことはない。気づくことのできない何かがおかしいと。

何もかもが変わった日からの百年を考えてみれば、少しずつ子供達の背が大きくなっていた。馬が走る距離が伸びていた。空を飛ぶ鳥が、大きくなっていた。……わしは、物の重さが無くなっているのではと仮説を立てた。日々を精一杯生きておるものにはわからんが、わしの様な干からびた存在だからこそ、気づくこともあるのじゃな。

とはいえ、天秤を使っても、釣り合いは変わらん。全てのものの重さが変わっているから、両方の重さが等しく変わっているのでのう。秤では確かめようがなかったのじゃ。

そんなわしが確証を得たのは、日々の訓練のおかげじゃった。思い立ったわしは、一日に3000射ずつ、同じ方向へ同じ力で弓を弾き続けることにしたのじゃ。

そもそも精霊は、成長もしなければ衰えることもない存在じゃ。その精霊が、同じ場所で弓を弾き続ければ、いつか変化があらわれるはずと、思ったのじゃ」

「毎日、3000射……」

「それを、50年ほどじゃの」

「ご、50年!?」

「うむ。学のないわしには、これくらいしか思い浮かばなかったのじゃ」

「それで、結果は……」

「うむ。毎日同じ線の上から弓を打ったが、確かに毎年わずかに飛距離が伸びていた。繰り返すが、精霊は人間と違って技術や筋力が上達することはない。それにもかかわらず、天候や風向きを考慮しても、毎年確実に飛距離は伸びていった」


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