何もかもが変わった日 その7
「弓精のじじいも、ようやくまっとうな大人になったってことだな」
ララベルさんが、無言でジャヴさんの頭を叩く。
「真っ当か……確かにの。肉体的、精神的に変化しないのが精霊と言われておるが、わしは変われたのかもしれん。
各地に解呪士を送り届ける道中、無数の死体を見た。死体が放置されたまま、疫病が発生している都市もあった……。遺されたのは子供だけじゃったからの。正しい衛生観念も持たず、自立ができている集団はごくわずかじゃった。わしと解呪士たちは、危機感を持っていた。冬が着て備蓄がなくなれば、いよいよ人類が滅び始める。連日馬を飛ばして、各地を駆け巡ったよ。
自暴自棄から、武装集団と化している子らを見たりすると、わしらは悩まされ続けた。彼らを救うのが先か、弱っている子を救うのが先か……色々と、辛い日々じゃったよ」
弓精の言葉に、場は静まり返った。
「うむ、辛気臭くなってしもうたの。なに、諸君らが知っての通り、人類は滅びなかった。食べものが安定してからは、若い者たちが勉強をして、無事に国を作り直したのじゃ。色々な犠牲があったが、かつての国家が持っていたしがらみがなくなったのは、もしかすると人類にとってのたった一つの幸運と言えるかもしれん。その後、帝国亡き後の国家同士の会議が行われたが、若き王子や首相たちの間に、先代たちのわだかまりは無く、危機感を解消することだけが目的の場ができたそうじゃ。その後は大きな戦争もなく、大人という存在が復活した後でも、奇跡的に続いておる」
弓精は、そこで言葉を切った。
「さて、わしが体験したことは、おおよそ話した。『何もかもが変わった日』当日のことは、現地から離れていてわからんが、こんなものじゃろう」
「……」
「質問などがあれば、答えるぞ」
「弓精、大事なことをまだ話していませんよ」
「む……?」
弓精は、髭を触って考えを巡らせているようだった。
「はて、何かな」
「重さの話です」
「なんと……!?」
「重さの話?」
「うむ……たしかに、忘れておった。が、どうやって、そこまで……」
「古武術書を読めば、考えに至る人はいると思いますよ」
「技の範囲か。じゃが……ううむ。いや、見事じゃ」
「レイル、何言ってるかわかるか?」
「さっぱりですね」
「おう、じじいとサさんよ。うちのレイルにもわかるように、説明してやってくれないか」
「……! 自分だって、わからないくせに!」