何もかもが変わった日 その4
「解呪士がきたということで、街の広場は人混みでごった返しておったそうじゃ。安全な食べ物を求めて、青少年達が藁にもすがる思いで集まってきたのじゃな。
目に見えるほどの呪いを含んだ食物が、一瞬で解呪されるのを見た子供たちは、皆、歓声をあげたそうじゃ」
「俺達の、先祖様か……?」
「おそらく、ね」
「その解呪士達は、数人の集団で世界を歩いているという。呪われた食料を解呪して旅しているという話をしていた。大人を久しぶりに見たという子供も多かった。感極まって、泣き出していた子も多かったそうじゃ」
「……」
その当時の子供達の心境を考えると、僕たちは言葉が出なかった。
親を亡くした悲しみは、まだ僕から消えていない。
「解呪士達が本物という報告を受けたわしは、彼らが泊まっているという宿まで会いに行くことにした。人を導く精霊としては情けない話じゃが、呪いや解呪のことを少しでも教えてもらおうと思ってな。
隣町まで夜通し走ったわしは、夜遅くに彼らが泊まっているという宿についた。そして、宿の看板を確かめているときに、不思議なものを見た」
「不思議なもの?」
僕らから見れば十分に謎の存在である精霊が、不思議という言葉を口にする。
「うむ。わしがあれにあったのは、初めてのことじゃったな」
「あれとは……白い大人、ですか」
「流石に、よく調べておるの。お主の言うとおり、白い大人と呼ばれた者たちじゃ。知っておるか?」
サさん以外の人間は、首を振る。
「何もかもが変わった日の前後、子どもたちの間で白い大人が夜の街を歩いているという噂が流れたことがある。よくよく聞いてみれば、全身真っ白の服を着て、顔を隠しているという。一言も喋らず、何人かで行動をして、気がつくと音もなく消えるらしい。
わしは、よくあるデマの一つかと思っておった。大人を亡くした子供たちが、何かを夢に見たのじゃとな。じゃが、あいつらは確かに存在をしておった。
夜道で白い大人を目撃したわしは、すぐに弓を取ってその場を動かないように威嚇を行った。腐っても弓の精霊じゃ。どう動こうとも外さんと思っておった。……じゃが、深いフードの下からわしの姿を見た白い大人は、雪が手のひらで溶けるかのように、空気に紛れて消えてしまったのじゃ」
「本当かぁ? じいさん、寝ぼけてたんじゃねーのか」
「……わしらは、眠りを必要とせん。それに……かすかじゃが、マナの残滓を感じた。どうやっているかはわからんが、あれはおそらく人間……いや、確証は持てんな。断言はやめておこう」