何もかもが変わった日 その1
「ほう……凶兆とは?」
サさんへの弓精の問いの返答を、皆が固唾を呑んで待つ。
「呪いが、減りつつあります」
「……?」
「呪いが減って、何がいけないんだ? いい事だらけじゃないか」
ジャヴさんが、僕の考えを代弁してくれた。皆も反論はないようだ。
サさんも、ゆっくりと頷いた。
「我が国は島国です。あなた方の国とは、遠く離れている上に、海をまたがなくてはいけません。それ故に、派遣される解呪士の数も多くありません」
「……」
「ですが、解呪士の仕事量よりも早いスピードで呪いの量が減っているようなのです」
「だから、それの何が問題なのよ」
「……皆さんは、呪いの正体が一体何なのか、考えたことはありますか?」
「呪いの……」
「正体?」
ジャヴさんの問に、サさんは直接答えなかった。僕たちはそれぞれ、顔を見合わせる。
「何もかもが変わった日以来、爆発的に増えたという呪い。その研究をしている国は、少なくありません」
「へぇ、そうなのか」
「一応言っておくと、私たちの国も研究してるからね」
ララベルさんが、腕組をしたまま冷静に指摘をする。
「ええ。ですが、領土と解呪士の少ない我が国の方が、本腰を入れているのは間違いないでしょう」
「……」
「そんな我々の国の研究員が、最近発表したのが……呪いは、マナを転送しているという説です」
「転送!?」
呪いの濃い場所に触れると、力が抜ける感覚は誰もが経験した事がある。だから、マナを吸い取るとか、マナを壊すと言われれば、納得していただろう。しかし、転送しているというのは、想像しづらいものだった。
「転送というと、どこへいくのよ」
珍しく、ジュリアさんが口を挟む。
「我が国の海の外。西へとしか、言えません。ですが、少しずつ、ゆっくりと、呪いに吸い取られたマナは移動しています」
「それで、凶兆というのは一体……」
「先ほども言った通り、我が国は解呪士の少ない土地です。計算上は、呪いが自己増殖する速度の方が早いはずなのです。それが、ここ数年ですが、呪いの総量が減り始めました。ここ数百年で、初めてのことです」
「……」
「吸い上げられて移動したマナは、どこへ行くのか」
サさんは、静かに息を吸って、少しの間言葉を止めた。言うべきか、否か。考えているように見えた。
「我々は、呪いとは悪意のある何かの所業で、その仕事が終わりつつある……そう、考えています」