異国/アーツ審査 その14
「レイル君、お疲れ様!」
「おう、どうだった」
皆のところに戻ると、円を作って待っていた皆が腰を上げて迎えてくれた。
期待の入った皆の声に、僕は右手の拳を上げて応える。
「おお! やったか!」
「へぇ~」
「凄いぞ、レイル!」
「慢心しないで、先輩を思う心を大事にするんだぞ!」
「皆さん……ありがとうございます」
皆の思い思いの声を、受け止める。苦労をしてここまでサポートをしてもらったので、皆に報いることができてほっとしたというのが、僕の気持ちだった。
「……弓精殿、よろしいですか」
歓声の上がる中、弓精に冷静に詰め寄る男がいた。サさんだ。
「うむ。なにやら、聞きたいことがあるそうじゃな」
「はい。……この世界に住むものの願いであり、我々の任務の一つです」
「……やれやれ、おおよそ察しはつくが……」
「……」
サさん。普段は物静かな人で、志位さんのグループの中では一番常識人の、教師のような物腰の人物だ。実際に、旅の途中で志位さんの教育係をしているところを見ると、相当に頭がいいのだろう。
戦闘においては、動きの目立つ志位さんとウさんの影に隠れがちだが、確かな技術を持ってチームを支えている。天才肌のウさんもそれをわかっているようで、指揮を任せたりと、信頼も厚い。
そのサさんが、何時になく真剣な眼差しで弓精に問いただすこととは、なんだろうか。
「えっ」
「任務!?」
サさんの言葉に、僕達(ジャヴさんと、ジュリアさん)から驚きの声があがる。
「……驚くのは、そこですか」
サさんが、呆れたような表情を見せる。
「なんだレイル、僕達だって任務を帯びて異国にきてるんだぞ。何だと思ってたんだ?」
「いや、その……」
志位さん(おそらく、お金持ちのお嬢様)のわがままで、自由気ままに世界を旅する集団だと思っていたのは、黙っておくことにした。
「弓精、お聞かせ願いたい。『何もかもが変わった日』のことを」
その単語を聞いて、皆が静まり返った。
何もかもが変わった日。過去に大きな事件があって、その名前の通り大きく世界が変わってしまったということくらいしか、僕は知らない。昔に起こったことだし、あまり口に出す人もいないのが現状だ。
そこまで考えたところで、僕は、ハッと気づいた。何百年以上生きているという弓精なら、その時代から生きている。サさんが聞きたいのは、そのことだろう。
「……わしは、何も知らん」
「……そんなはずは、ありません。あなたが、今となっては一番当時のことを語れるはずなんです。いや、あなたしかいないと断言できる」
「……」
弓精は、天を見上げた。山上では雲の動きは早く、冷たい日差しが降り注いでいる。
「これまでも、何人か過去の話を聞きに来た者達がいた。……だが、全て追い返したよ」
「そんな……」
「繰り返しになるが、わしは何も知らんのじゃ。ただ、あの時代に暮らしていた。それだけじゃ」
「構いません。お聞かせください」
「なら、聞かせてもらおう。それを聞いて、どうするのじゃ。歴史に興味があるというだけでは、悪いが口を開かんぞ」
弓精の問を受け、サさんは振り返って志位さんとウさんの方を見た。二人は、真剣な表情で頷く。
「……我が国に、凶兆があります」