異国/アーツ審査 その13
「ふむ……」
弓精は、再び出血した腕をまじまじと眺めた。深く切られて、骨まで見えそうな傷口を、自分のものではないように見つめている。
「……僕から見せられるものは、以上になります」
距離を取ったまま、僕はナイフについた血を拭いて収める。二つの技の両方が弓精に通用したことに、興奮を隠せなかった。
「うむ……」
弓精からの返答は、しかし明瞭なものではなかった。
「あの……どうかしましたか」
「うむ……」
再び、生返事が返ってくる。
「やはり、お体にダメージが残りましたか」
「いや……精霊は、この程度ではなんともない」
「では、他の要因ですか」
弓精は、頭を振って髭を伸ばす。
「ええい、当たり前じゃ。こんな若造に、二本も取られたのじゃからな。ああ、酒が不味くなりそうじゃわい」
そう言うと、薄い髪の毛をガシガシと掻く。それはポーズではなく、本当に悔しそうだった。
頭を掻く腕の傷は再び、急速に塞がっている。ピンク色の肉が盛り上がって、徐々に収まっていく様子は、気味のいいものではなかった。
「ふう……よし。では、帰ってよいぞ」
「はい。結果は、後でということでしょうか」
「結果? わしから二本取っておいて、後からも何もないわい。お主のアーツは、あの投げナイフと今の足でナイフを使うやつじゃろう?」
「はい」
「では、精霊格・弓精が認める。お主は、今日からアーツ・ホルダーじゃ」
「え、ほ、本当ですか!?」
あまりにあっさりと決まってしまったので、僕は思わず問い直してしまった。
「うむ。一度に二つのアーツを取得するやつは、わしの知る限り前代未聞じゃな。これからは、色々と追われる立場になる。慢心や油断をするでないぞ」
「……はい」
「なんじゃ、もっと、若者らしく飛び上がって喜ばんかい」
静かに拳を握って喜ぶ僕に、弓精は言った。
「いえ……今は、これが精一杯です」
山上の澄んだ空気は、どうしても故郷を思い出してしまう。達成感が胸いっぱいに満たされないのは、どうしても心に家族の事が浮かんでしまうからだった。
「ふん、まぁいい」
弓精は、踵を返して立ち去ろうとした。
「あ、あの……」
「む? ああ、そうじゃ。お前の連れと話をするんじゃったな。……まったく、とっとと酒を飲んで横になろうと思ったのに。それに、書類も書かなくてはならんのか……あぁ、面倒くさい」
ぶつぶつと文句を言いながら、それでも弓精は僕の後をついてきてくれた。