異国/アーツ審査 その9
弓精はため息をつくと、僕たちを見上げた。
「やれやれ、最近のもんは、どんどんでかくなるのう」
そう言って首を振る弓精は、僕よりも背が低い。少なくとも僕の国の成人男性の平均を、大きく下回るだろう。
「弓精、本日ここにきましたのは……」
「ああ、わかっておる。アーツ審査じゃな。全く、たまには弓の人間に来て欲しいもんじゃ」
弓精は、鷹揚に手を挙げてララベルさんの挨拶を遮った。
「そちらの三人組は、すでに合格しているようじゃな。ならば、そっちの小僧か?」
「そんなことが、わかるんですか!?」
皆が声をあげて驚く。
「説明は面倒なので省くが、わかる。武の精とは、そういうものじゃ」
僕達としては、説明を省いて欲しくはなかったのだが、言い切られてしまった。
「やれやれ、剣のやつが最近さぼっていると思ったら、こっちに来おったか」
「えっ、剣精の動向がわかるんですか!?」
「むお!?」
思わず食いついてしまった僕に、弓精は驚いたようだった。
「アーツ審査なんてものをやっているのは、剣のやつだけじゃからの。そこが滞っているのは、わかる」
「剣精は……無事なんですか」
「ええい、質問の多いやつじゃ。消滅や譲位すれば、わかる。それがないということは、アーツ審査以外の何かをしているのじゃろう」
「そうですか……」
無事がわかって、ほっとした反面、連絡が全くないことに、寂しくもなった。
弓精は、そんな僕の手を荒々しくほどく。
「男が、そんな顔をするでない。なに、剣の道を歩んでいれば、いつかは会える」
「……はい」
「では、そこの若造を審査すればいいんじゃな」
「よろしいでしょうか」
「一応、武の精の本分は人助けじゃ。あの谷を越えて来たものは、相手をしてやると決めておる」
「弓精、もしよろしければ、審査の後にお話をさせていただいてよろしいでしょうか」
サさんが、一歩踏み出して願い出る。
「……好きにせい」
「ありがとうございます」
そう言って、右手の拳を左手で包んだ。見たことのない所作だったが、弓精はそれを一瞥しただけでなにも言わなかった。
「では小僧、こっちへ来い」
弓精が、皺だらけだが異様に太い指を立てて、奥へと示す。
「レイル、大丈夫か」
ジャヴさんが、背後から声をかけてくれた。僕は、親指をあげて応える。
「お、やる気じゃねーか!」
「ふん、何もとって食ったりはしないわい」
そういうと、弓精は歩き始めた。僕は、その後をついていく。
「……わしは、な」
そんな弓精の言葉が聞こえたのは、僕だけだった。