異国/アーツ審査 その8
「ララベル、体重いくつさ」
「えっ、急に、なによ」
「いや、軽い順に滑るとかいって、自分のところでロープが切れたら嫌だなって」
「……た、確かに、それは嫌……」
「うちらは、コインで決めようか」
「そ、そうね、そうしましょう」
一方その頃、志位さんたちも集まって打ち合わせをしていた。
「若、落ちたら死にますからね。ここはふざけないでくださいよ。今日一番真面目にならなきゃいけないところですよ」
「わかってるよう」
「頭ではわかってるのに、何かやらかすから怖いんだ」
「よし、今から頭巾を作りますので、それをつけましょう」
「そんなの要らないってば!」
順番は、僕、志位さん、ララベルさん、ジュリアさん、サさん、ウさん、ジャヴさんとなった。間に、各々の荷物だけを結んで降ろす回があるので、随分と往復することになる。
「では、行きます」
先頭の僕が滑り始める。
ロープにぶら下がると、滑車はゆっくりと滑り始めた。地上数十メートルの谷底を越え、逆側に着くと、後ろから皆の歓声が聞こえてきた。
踵を擦って着地し、ロープから降りる。振り返って、問題がないと示すために手を振る。
滑車に新しいロープを結び、適当な枝を結んで投げる。それをジャヴさんが受取り、今度は僕の荷物が降ろされてきたので、受け取る。
そんな調子で、全員とその荷物が無事に渡ることができた。最後にジャヴさんが体を水平にして滑ってきたが、ララベルさんを見ると首を振ったので、誰も触れないでいた。
滑車の後は何か仕掛けがあったわけではなく、細い道や険しい道はあったものの、迷わず進むことができた。途中の細い崖っぷちの道などは、マックスさんには渡るのが厳しかったかもしれない。
中腹あたりで平坦な道が続き、やがて小さな小屋が見えた。僕の国ではあまり見ないスタイルの、瓦を使ったオリエンタルな建築物だった。裏には、小さな畑と井戸がある。ここで暮らしているのだろうか。
「やはり……」
ウさんとサさんが感慨深く頷いているところを見ると、考えていた通りの人物だったのだろうか。
「ここが、弓精の家ってことか?」
「おそらく」
皆が静まり返って気配を探るが、目の前の家からは物音一つしない。
「留守……かな」
「おるわい」
「うわっ!?」
突然、背後から声がしたと思ったら、すぐ後ろに小柄な男性が立っていた。
「いつの間に……」
「あ、あなたが弓精ですか」
「いかにも。まったく、せっかくの仕掛けを、強引な方法で渡ってきおってからに」
そう言って、弓精は僕達をじろりと見回すと、長いあごひげをなでた。深い皺と鋭い眼差しは、確かに只者ならぬ気配を感じる。剣精とは、外見は全くかけ離れているのだが、どことなく佇まいに似たものを感じる。達人に通じる何かがあるのかもしれない。
「お主たちは……弓使いではないな。全く、嘆かわしい限りじゃ」