異国/アーツ審査 その2
翌日、集合した皆の表情は明るかった。早めに休み、宿に泊まったことで心身ともにリフレッシュできたようだ。
馬達も、馬小屋で飼葉をたっぷりもらったようで、機嫌がいい。
「弓精は、南の山脈の中に居を構えているそうです。情報を集めながら、そこまで進みましょう。もしかすると、登山の装備も、必要になるかもしれません」
「登山……」
不安げな声が上がる。
「あくまで、もしかするとです。今は近づくことを考えましょう」
そういうと、荷物をまとめ始める。
数日後、僕たちは弓精がいると言われている山脈に近づいていた。弓精は割とポピュラーな存在らしく、この国で武を目指したり、アーツ•ホルダーになろうとする人間にはメジャーな存在のようだ。
特に、数少ない弓を学ぶ人たちからは、弟子入りを乞う者が引きを切らないという。
「弓かぁ……言っちゃなんだけど、あんまり、縁がないよねー」
ジュリアさんが、ぶっちゃける。
国同士の大規模な戦争が起きていないこの時代では、弓兵の人気は低い。戦術的に弓が求められる場面が少なく、何よりも、弓術にアーツが生まれにくいのが、人が集まらない原因だ。
「まぁ、本物を見れば、意見が変わるかもしれないよ」
ララベルさんが言う。
「うーん、そうかなぁ」
「弓精が噂通りの人物でしたら、私たちの国では、伝説的な方です」
普段は静かなサさんが、珍しく自分から声を出した。
「ええと、東の国の人物なんですか?」
「厳密には、違います。が、我々と縁の深い国です。この地から見れば、どちらも東でしょうけどね」
「そうなのか?有名人か?」
志位さんが、会話に割り込んできた。
「おそらく、……です」
サさんが、志位さんに耳打ちをする。
「……?」
ぽかんと口を開けた顔を見る限り、心当たりはないようだ。
「まったく……あなたも、弓道を嗜んだでしょう。あなたの姉上が、大ファンな人ですよ」
「そうなのか! じゃあ、サインもらえるかな」
「多分、くれないと思いますよ……」
サさんが頭を抱える。
「歴史の授業で習ったはずなのに……」
「教えたのは、お前だろ」
「ううう」
「そんなに、有名な方なんですか」
僕は、サさんたちに聞いてみる。
「我々が聞いた話が本当の情報だとすれば、弓精は、千年以上前の武将と思われます」
「せ、千年!?」
想像もつかない、とんでもない数字が出てきた。
「千年以上前です。正直、私も信じがたい話だとは思いますが……精霊体なら、それもあり得るのかもしれません」