旅の記録 -15
「うおお! さすが隊長どの! 話の分かるいいやつじゃないか」
志位さんが抱き着いて喜ぶ。
「こ、こら……調子がいいんだから……ただし、有事の際はそちらを助けませんから、ご了承を」
「? 助けられたのはそっちなのに?」
「ぐ……」
ララベルさんが、悔しそうに口をつぐむ。発言に悪意のないところが、志位さんらしい。
「よう、また頼むぜ」
ウさんが、ジュリアさんに話しかける。顔見知りといった距離感だ。
「んー、気が向いたら、ね」
ジュリアさんも、ウさんの呼びかけに満更ではなさそうに応えた。二人とも、顔に秘密めいた笑いを含んでいる。
「お、おい、あの二人って、やっぱり何かあったのか」
「そ、そんなこと私がわかるわけないでしょ!」
ジャヴさんとララベルさんが、なにやらひそひそと話している。
「ええと、あなたたち、馬はどこですか?」
「あちらの、少し離れたところにとめてあります」
雑談に加わらないマックスさんがたずねると、サさんが丘の下の岩陰の方を示す。
「それでは、そろそろ出発しましょう。もう一度襲ってくるとは思えませんが、もうすぐ朝ですし、この小屋にいてもしょうがないですから」
「了解」
一同は、マックスさんの提案に同意すると、ぞろぞろと移動を開始した。
「そういえば、その武器はどこで調達したんですか?」
ララベルさんがサさんに聞く。確かに、志位さん達は首都にいたときには丸腰だったはずだが、今はそれぞれが剣を持っている。
「途中、盗賊が持っていたものを奪いました」
「ふーん。あまりいいものじゃ、なさそうですね」
「ええ。元々の質が悪いですし、我々の国のものとは様式が違うので、使いづらいですね。国境で引っかかっても面倒なので、この小屋に置いていきましょう」
「大丈夫なんですか?」
「大抵の相手なら、無手でもすぐに武器を奪えますから」
サさんが言うと、志位さんとウさんも頷いて小屋の中に剣を置いていった。
「僕の愛刀ちゃんに会いたいよ」
志位さんが、ぼやく。
「同感だが……なに、これも修行だ」
そういって、ウさんは志位さんの頭に手を乗せる。
「では、いきましょう」
ララベルさんの言葉を皮切りに、僕たちは、馬を引いて再び丘を下りはじめる。
周りは風の音がするだけで、人の声は全くしない。さっきまで怒号と悲鳴の荒波に溢れていた場所だとは、とても思えない。
夜が明けるころ、前方に朝日に輝く国境が見えてきた。夜通しの戦闘で皆の疲労は少なくなかったが、僕たちの国旗を掲げる黄金色の砦を見ると、皆から歓声があがった。