旅の記録 -14
僕たちが泊まっていた小屋に戻ると、小さな室内はこっぴどく荒らされていた。
おそらく、頭領と一緒に僕たちを追わずにこっそりと物色をした、抜け目のないものがいたのだろう。全員の荷物がひっくり返されて、金目のものがないか物色されたようだ。
馬が残っていたのは、不幸中の幸いだった。処分すると足が付きやすいので、頭領にバレるのを恐れたのだろう。
「やれやれ。ひどいものね」
ララベルさんは、ため息まじりに言う。
「うーん、この小屋自体が、罠だった可能性があるねー」
ジュリアさんが、腰に手を当てて辺りを見渡す。
「この小屋に人が泊まったら、盗賊が囲みに来ていたってことか。危なかったな」
「志位さん達には、感謝してもしきれないですね」
その志位さん達は、まだ外で金目のものを探している。国を出て資金が有限な彼らにとっては、ばかにならないお金なのだろう。
各自が、ため息交じりに散乱した自分の荷物を片付け始めた。
「うわあっ!」
「ど、どうしたんですか、ジャヴさん!」
悲痛な悲鳴を聞いた僕は、思わず反応してしまった。
「お、俺の予備のドクロが割れているっ!」
「予備のドクロってなんですか……」
「レイル君、変な単語が出ても、わざわざ聞かなくてもいいのよ」
ララベルさんが、自分の荷物を片付けながら僕を諭す。周りを見ると、わなわなと震えているジャヴさんを、誰も気にしていない。輪を乱すのも問題なので、僕も相手にしないようにする。
「おーい、このパンツはどっちのだ!」
「聞かなくていいから!女物があったら、こっちにまとめておいてよ!」
「上はわかるんだけどなー」
「あんた……首都に帰ったら、覚えてなさい!」
任務が終わるまでは、ジャヴさんの命を消さない辺りが、ララベルさんの責任感の現れだろう。
「さて、こんなものかな。みんな、金子は無くなっていない?」
一通り荷物がまとまったところで、ララベルさんが切り出した。
「大丈夫です。元々、そんなに多く持って来てなかったので、全部のお金を持ち歩いていました」
「わたしもー」
「僕もです」
「ララベルさん、隊費は大丈夫ですか?」
マックスさんが、心配そうに尋ねる。
「うん、いつも持ち歩いているから、大丈夫でした。特に今回は、交渉に使うかもしれなかったから、個人的なものも合わせて移動しました」
皆が胸をなでおろす。途中でリタイアということには、ならなさそうだ。
「あのー、ところで……志位さんたちは、どうしましょう」
「うーん……」
皆が、ララベルさんに注目する。判断に迷うところだろう。恐らく、みんなの意見も割れるはずだ。
「本来は、任務に他の国の人を加えるわけにはいかないんだけど……今回は、恩もあるし、ねぇ」
「……」
「あの子は、レイル君についていきたいと言っていたんだよね」
「そう言っていました」
「腕も立つし、トラブルにはならないんじゃないですか」
マックスさんが、挙手をして発言する。
「何かあれば、サさんが止めてくれるとは思いますけど……」
「うーん……」
ララベルさんは、しばらく腕組みを解かなかったが、やがて観念したように。
「たまたま方向が同じで、同行したということにしましょうか」
と、言った。