旅の記録 -12
再び、夜の帳の元で戦闘が始まる。好戦的で長物を使う者は、すでに倒れている。つまり、残っている人間は消極的か、射程の短い武器を持った者たちで、当然のようにララベルさん、ジュリアさんに次々と撃ち落とされる。
彼らが僕たちよりも有利にあるのは、ここまでの運動量くらいだ。だが、それも日頃の運動不足のせいか、僕たちを追って走ってくるのにずいぶんと体力を使ったようで、今一つ精彩を欠いていた。
しっかりと陣を組んで戦う僕たちには、素人同然の盗賊など敵ではなかった。
ジャヴさんが遠距離から手斧を投げ、潜り抜けた人間をジュリアさんとララベルさんが倒し、さらに近づいてきた敵を僕とマックスさんが叩く。
実際に戦闘をやってみてわかったが、僕たちのパーティは近距離から遠距離までをカバーしている、戦いやすい構成になっていた。
脇では、相変わらず志位さんたちが危なげなく戦っている。目まぐるしく立ち位置が入れ替わる戦法は、まるで舞のようだ。
死体の山が積み上がるにつれて、逃げ出す者もでてきた。その結果といえば、首領に切って捨てられたり、上手く逃げられたりと、様々だった。
ついに、盗賊団達の統制が崩れはじめたのだ。
「うぬう……!」
頭領は、ようやく分の悪さを認識したようで、手綱を引いて、馬の方向を変えようとした。
「部下にやらせておいて、逃げるのか、臆病者!」
「!?」
僕は、大声で頭領をなじる。
「……なんだと!?」
子供に憶病者扱いをされたまま逃走すれば、もはや今後は盗賊団の首領として活動できないだろう。
引くに引けない状況を作ったのは、マックスさんの馬を乗り逃げされたくなかったからだ。
僕は、血のついたナイフを首領に突き出す。
「お前ごとき、子供でも倒せるぞ」
辺りは、しんと静まり返った。後から来た盗賊達も、足を止めて様子をみている。ルールがしっかりしていない集団は、常にマウントの取り合いだ。ここで引いたら、必ず子供から逃げたというレッテルが付きまとうだろう。
部下達は、それを敏感に感じ取っている。
「くそっ」
頭領も、誰よりもそれをわかっているのだろう。地面に唾を吐くと、だんびらを担いで馬から降りた。
「てめえら、俺が出るからには、分け前は無しだ!」
血走った目で周囲に叫ぶと、ずんずんとこちらに向かってくる。
「小僧、お前からだ。この俺に啖呵を切った度胸に免じて、とっとと済ませてやる。後がつかえているようだからな」
さっき僕がやったように、太く切れ味の悪そうな刀を僕に向ける。
僕は、無言で手の甲を向けて人差し指を立てると、自分の方へと二回曲げた。
「くそがぁっ!」
頭領が、走り出す。僕は、ナイフを二本構えてそれを迎える。