旅の記録 -11
「お、あそこかなー」
ジュリアさんが指したところには、確かに道が狭まったところがある。左右は木と深い藪で囲まれていて、容易には脇から入ってこれそうにない。
「みんな、あの場所まで行って、陣を作って!」
ララベルさんが、全員に指示を出す。さすがに、苦しそうだ。ララベルさんの息が切れているのを、僕は初めて見た。
振り返ると、まだ盗賊達はまばらに追ってきている。だが、大半は様子を見ながら歩いていて、乗り気ではなさそうにも見える。先に進んだ仲間たちの死体が、道なりにゴロゴロと転がっているのだから無理もないだろう。
僕たちに追いついた男達も、距離をとって攻めあぐねているようだ。
マックスさんが肩で息をしている他は、概ねこちらに損害はなさそうだ。特にジャヴさんなどは呼吸が全く乱れていない。一時は完全に包囲されたことを考えれば、この状況は上出来だろう。
ゾロゾロと、次から次へと男達が集まっていく。森に入って回り込もうとするものはいない。
そこへ、蹄が地面を叩く音が聞こえてきた。
「あ、僕の馬!」
マックスさんが、声を上げる。頭領が、馬に乗って追いついてきたのだ。僕がナイフを投げた腕には、ボロ布を巻いて応急処置をしてある。
「お前ら!何をグズグズしてやがる!とっとといかねえか!」
馬上からだんびらを振り回して、いきり立つ。
「で、でも、あいつら凄腕ですぜ」
「傷一つついてねえよ!」
部下達が、抗議と哀願の混じった声を出す。
「あん!?今、俺に指示をしたか!?」
頭領の目が、ギラリと光る。
「してない!してないけど、あいつらは化けもんだ!」
「助っ人で来た、あのちび女達も全然近づけないしよう」
「誰がちび女だ!」
志位さんが聞き逃さずに抗議する。
男達の士気は、あからさまに低下している。僕たちにとっては、都合がいい
「このまま、諦めてくれねーかな」
マックスさんが、斧を構えてつぶやく。
「お互いに、それが一番なんだけど……」
「動かない奴らは、俺が叩っ斬るぞ!」
口から泡を飛ばし、頭領が叫ぶと、しぶしぶといった表情で盗賊達が前に出る。
「うーん、害悪」
「みんな、後一息よ。気を抜かないで!」
僕とジャヴさん、そして志位さんたちが息吹で呼吸を整える。
「敵は……後、何人くらいだ?」
「この後、どれだけ増えるかによるわね。どさくさに紛れて逃げたやつらも多そうだけど」
「途中離脱、大歓迎だぜ」
月明かりの下、僕たちは構えたまま相手の出方を待つ。
「逃げるなら、追いません。命が惜しかったら、とっとと武器を捨てて退散しなさい!」
「逃げたら、俺が殺す!」
盗賊達はジレンマを持ったまま、こちらににじりよる。若干ではあるが、頭領への恐怖が勝ったようだ。