旅の記録 -9
「俺は金髪をいただくぜ」
「俺は黒髪の方だ。いきがよさそうで、うれしいね」
腕に自信があるのか、度胸が据わっているのか、出てきた盗賊達は落ち着き払っている。個々の実力では僕たちが勝っているかもしれないが、乱戦慣れしているのなら、それだけで脅威だ。
「よおし、せぇ……」
合図の為に頭領が腕を振り上げた瞬間、僕の投げナイフとジャヴさんの手斧が飛び出した。二人とも、考えていることは、同じだったようだ。
「ぬおっ」
咄嗟に手斧を剣で弾いたが、僕の投げナイフは腕に刺さった。一瞬の判断で傷が大きくなる斧を防いだのは、敵ながら見事と言うべきだろう。
弾かれた手斧は、そのまま後ろに飛んでいき、盗賊の一人の肩あたりに刺さって後ろへ倒した。
中途半端な合図だったが、いきり立っていた盗賊達は一斉に動き始めた。二歩、前に進んだ男の喉を、ララベルさんの槍が掻っ切る。その横では、ジュリアさんが別の男の眼底を砕いていた。
「くそ……」
両手に斧を構えたまま、ジャヴさんは汗を拭う。
誰しも時間の問題だ。そう思った時、
「ギャァ!」
僕の後方、やや離れたところから、僕たち以外の誰かの悲鳴が聞こえた。
「な、なんだ!?」
その声が意外だったは、僕たちだけではなかったようだ。盗賊たちも、声の方を一斉に確認しようとする。
「おーい、レイルー。生きてるかぁ」
緊迫した空気とは裏腹の、のんびりとした声。この声に、僕は聞き覚えがある。
「志位さん……!?」
「わはは。聞こえた! でも、全然見えないな。ちょっと待ってろ、今そっちにいくからな」
「まさか……本当におっかけてくるなんて」
「いやー、それがさ、聞いて「ぐあっ」よ。一回変な道に入「ううっ」っちゃって。この辺の「ぎ……あ……」人に道を聞いても、あんまり教えてくれないしさー」
世間話をしながら、ウさんサさんと連携して、ザクザクと人を切り刻んでいる。
志位さんに振りかぶった剣をウさんが弾き、手ぶらになった相手に志位さんがとどめをさす。次にウさんの背後から襲い掛かってきた相手に、サさんが横なぎの一閃を放ち、首を斬る。
「凄い……」
志位さんらが、僕たちよりも圧倒的に優れている点は、一目瞭然だった。どうやっているのかはわからないが、彼らは連携しての戦いが恐ろしく上手い。まるで一人の人間が6本の手を持って戦っているかのごとくに、三人がお互いを補いながら動いている。中心に志位さんを置き、脇の二人は志位さんの周りをつかず離れず戦っている。
僕たちには、あの連携がない。だからこそ、こうして円陣を組まざるを得なかったのだ。
「おい! レイル! 見とれてる場合じゃないぞ!」
ジャヴさんの声で、僕は我に返る。確かに、混乱に乗じて脱出をするなら、今しかない。
「ララベル! どうするんだ、合流するのか!」
「あの人たちの後ろに退路があるか、確認して!」
長身のジャヴさんが、背を伸ばす。
「大丈夫だ、明かりは見えない!」
「あんた、今度見間違えてたらモヒカンを馬に食わせるよ!」
「ひっ、だ、大丈夫です」