旅の記録 -8
「まさか……分裂した……!?」
「数え間違えただけだ! アホ!」
そんなやりとりをしている間にも、前後から続々と盗賊たちが集まってくる。
先陣は膠着状態にあり、歩みはほとんど止まってしまった。
徐々にではあるが、包囲網が狭まってくる。
「男は殺す!女は、楽しんでから考える!」
首領らしき男が、ようやく顔を出した。熊の毛皮を身につけた、酒に焼けた顔をした浅黒の男だ。
「そこのやつら! 女を捕まえるのに協力したら、逃がしてやる。よく考えろ!」
がなり声が、辺りの葉を揺らす。息を止め、こちらに考える時間を与えているようだ。
「なぁ、お前らもこっち側だろ? 用心棒も、命あっての物種だぜ。意地を張らずに、協力しろよ」
「?」
「?」
男が指を指すと、ジャヴさんとマックスさんが、お互いのことを指差す。
「いやいや、お前ら両方に言ってるんだ。中々腕が立つみたいだな。俺は過去にはこだわらないぜ。反省して盗賊になるというのなら、仲間にしてやってもいいんだ」
「?」
「?」
お互いに顔を見合わせた後、モヒカンの男と傷顔の男は武器を挙げて抗議の声をあげる。
「ふざけんな! 俺は善良な市民を守るSSLだ!」
「そうですよ! 盗賊団なんて、汚らしい!」
予想外の反応だったのか、首領と思わしき男は少しのけぞって驚き、その後にニヤリと笑った。
「そうかよ。だったら、覚悟はいいんだな」
途端に、顔に青みがかかる。目がすわり、歯に力を入れる。これから殺しをする目なのだろう。
「ふっ!」
珍しく奇声をあげずに、ジャヴさんが手斧を投げる。
「ボス!」
「おおっと」
男は、その手斧を難なくかわす。意外と早い動きを僕たち全員が見て取った。
「へへ、残念だったな。だが、これで楽には死ねなくなったぜ」
すでに周りには円ができている。僕たちは自然と円陣を作り、構えをとる。
「痛え……痛えよ……ボス、早くやっちまって下さい!」
男達の中から、泣き声にも似た叫びがあがる。先ほど僕が足を切りつけた男だ。
「るせえ!おい! 先にそいつをやれ!」
首領らしき男が叫ぶと、周りの男が武器を抜く。
「え……おい、ちょっと」
自分が標的になったのがわかると、男は慌てて陰に隠れようとする。脚を引きずって後ずさりしたところを、側の男に首をはねられた。
「俺に指示するな!」
「ボス、今のは指示じゃないですぜ」
「あ、やっぱりそうか!? まぁ、あの脚じゃ、どうせ使い物にならないからな!」
笑い声が響く。
僕たちは、それを黙って見つめている。今さら死体が一つ増えても何も思わないが、この男が来てから、場に一層の緊張感が生まれた。
バラバラだった盗賊団に、統率が生まれつつある。それが、なによりまずい。
「長物を持ってるやつ、殺しをしたいやつは前に出ろ!」
「おう!」
ざっと、数名の男たちが前に出る。
「よし、お前ら。せぇのでいくぞ。女はなるべく殺すなよ!」
さらにもう一歩分だけ円が狭まる。
「いいか!上手くやったやつは、二番乗りだ! まだ綺麗なうちにやれるぜ!」
だんびらを抜くと、振りかざした。