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アーツ・ホルダー  作者: 字理 四宵 
第十五章 旅立ち
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旅の記録 -6

7日目

僕たちは、ついに国境に近いところまで到達した。後一日移動すれば、いよいよ国から出ることとなる。

道中のなだらかな丘の上に、小さな小屋があったので、そこで一夜を過ごすことにする。屋根と壁があるだけで、随分と体が楽になるので、皆の表情は明るくなった。


「隙間風はあるけど、これくらいなら全然オッケーだな」


ジャヴさんが、小屋の周りをぐるっと周って確認する。


「……」

「どうしました?」


入り口の前に立ち止まるジュリアさんに、声をかける。


「いや、なんでもない。気にしないで」

「……?はい」


なんでもないと言いつつも、ジュリアさんの表情は明るくならなかった。何かを気にしているようだ。

室内は狭く、放置されて荒れ果てていたが、一晩を過ごすだけなら問題はなさそうだ。

掃除を始める皆と離れて、僕は馬の世話をすることにした。


「馬の様子はどうですか?」


マックスさんは、僕に声をかける。


「多少疲れているようですけど、まだまだ元気です。スピードをあまり出さなかったし、固い道もそんなになかったので、大丈夫でしょう。このまま、何もないといいですね」


僕は、馬のたてがみを撫でる。


「馬の気持ちがわかる人がいて、助かりますよ」

「気持ちがわかるというほどじゃ、ないですよ。ずっと羊や馬に囲まれてましたから、その分、ちょっと慣れているだけです」


僕の言葉を、マックスさんはうんうんと気持ちよさそうに聞いている。


「部屋には、入らないんですか」

「……もう少ししたら、行きます」


荒れ果てた小屋は、僕の実家を思い出させる。被呪特区に指定された僕の故郷に、あれきり帰れていない。休みをまとめてとって、付近の街に聞き込みを行なっても、弟の消息はつかめなかった。

馬に顔をうずめて、眼をつぶる。土と草、そして馬のにおいが、過去の記憶を泡のように組み立てる。


「レイル、ミーティングするぞ」


部屋の中から、ジャヴさんが声をかけてくる。僕は深く息を吐いて、「はい」と応えると、朽ちかけて軽いドアを開ける。


「順調に進めば、明日国境に到着します。SSLとして補給を得られるのはそこまでで、後は買い物をしながら進むことになります」


皆が輪になって座り、ララベルさんがそこに向かって話しかけている。


「隣国の地図は、大よそのものしかありませんし、外国人の私たちが手に入れるのは難しいでしょう。街があれば素通りせず、情報収集と買い物が大切な任務になります。特に、弓の精の情報は、必ず尋ねるようにすること」


僕は、志位さんたちのことを思い出した。彼らも、僕たちの国に来て苦労をしているようだった。そういえば、出がけに志位さんにあったきり忘れていたが……


「向こうの国の医療がどうなっているかわかりませんが、私にとってハードルが上がることは間違いありません。特にレイル君は、今まで以上に気をつけてね」

「あ、はい」


僕たちの国には解呪師という優位性があり、その結果としてここ数十年、隣国との関係は平和なものらしい。戦争になれば真っ先に巻き込まれる、ここ国境付近にも比較的民家が集まっている。


国境といっても辺りには簡易な柵しかなく、人の出入りはそれほど厳密ではないらしい。おそらく、普通の人がこっそりと越えようと思えば、容易いのだろう。

ただし、僕たちは公の任務で派遣されている身なので、出入国には所定の手続きをとらないとまずい。

何かがあったときに、正式な手続きを踏んでいないとわかると、国際問題になってしまうのだ。

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