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アーツ・ホルダー  作者: 字理 四宵 
第十五章 旅立ち
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旅の記録 -5

「実は……」


マックスさんが、先ほど見て来た光景を報告する。淡々と客観的な事実を切り取り、受け手に印象を与えない、冷静な口調だった。


「なるほど、状況はわかりました。人に危害を与える可能性は、ありますか」

「ないとは、言いきれません。今のサイズなら、もしかすると大人でも危ないかも……」


僕は頷いて、賛同を示す。


「移動速度は、どれくらいですか」

「観察した時点では、ほとんどありませんでした」

「わかりました。では、少し回り道になるかとは思いますが、明朝全員でそこに行き、駆除できるか試しましょう」


全員が、緊張の面持ちで頷いた。


「夜行性にせよ、昼行性にせよ、早朝は活動が弱いはずです。叩けるうちに叩いておきましょう。念のため、夜の間は見張りは特に気を張るように」

「了解!」


野営の準備は、いつも通り進められた。この距離なら大丈夫だとは思うが、危険な変異呪種がいるかもしれないというプレッシャーはどこかにあるのだろう。皆の口数は、心なしか少なかった。

その晩、ララベルさんの就寝は一段と遅かった。行動記録に、また色々と書き加えなくてはいけないのだろう。僕が声をかけた時には、眠気眼だった。


早朝。いつもよりも早い時間に、全員が起床した。

隊員全員が松明を持ち、昨日の場所へと集まった。念のため、馬は少し離れた場所に止めている。


「あれです」


マックスさんが指し示す方には、昨日見た時よりも活発にうねる藪の姿があった。


「昨日見た時よりも、動きが早い気がします」

「よし、全員、抜刀」


ララベルさんが号令をかけると、それぞれが自分の武器を取り出す。

ララベルさんは、松明を放り投げると、それを槍で突き刺した。


「これでいけるか、試してみます」


ゆっくりと、すり足でそのまま動く藪に向かってにじり寄る。ララベルさんが近くにつれ、動きはさらに活発になっているようだ。


「ララベル、それ以上は危ないよ」


ジュリアさんが声をかける。確かに、枝のスピードはもはや最初に見た時とは比べ物にならなかった。枝の動きがバラバラなので、移動はできないようだが、これが何らかの意思をもって方向性が定まったら、かなりの速度で移動ができるのではないか。


「……」


ララベルさんの額に汗がつたう。槍に松明をつけたまま、間合いを取りあぐねているようだ。


「ララベル、よせ。俺が松明を投げた方が、安全だと思う」


ジャヴさんの発言に、ララベルさんが目を合わせて頷いたとき、藪の中から蔓が飛び出して、ララベルさんの足首に巻き付いた。槍の間合いよりも広いところから、的確に獲物を捕らえている。


「ララベルさん!」

「ララベル!」


皆が声をあげるなか、ララベルさんの動きは冷静だった。

グリップを回転させ、松明から槍を引き抜くと、そのまま刃の部分で蔦を切断し、バックステップで距離をとる。遅れて、松明が落ちた。動く藪が追ってくる様子はない。


「ふう……」

「大丈夫ですか!」

「うん。でも、思ったよりも力は強かったよ。振り解こうとしていたら、危なかったかも」


ララベルさんは、ボトムスの裾を上げてみせる。動く藪に掴まれていた部分が、赤くなっていた。


「さ、ジャヴ、とっととやっちゃって」

「まかせろ。たった今、フライング・ファイアー・ソーサーというアーツを、思いついたところだ」


そう言うと、ジャヴさんは松明を振りかぶり、足を大きく上げてスタイリッシュに構える。


「ヒャッハァァ!フライング・ファイアー・ソー」

「前に見たやつと同じやつなら、回転させる意味はないと思いますけど」

「……!」


直前で茶々が入ったからか、ジャヴさんの投げた松明はすっぽ抜けて、あらぬ方向に飛んで行った。


「あーあ」

「投擲が自慢なのにね」

「ちゃんと、火事にならないように拾ってくださいね」

「ちょ、ちょっと待って。今のはマナー違反がありました」


ジャヴさんが言い訳をしている間に、ジュリアさんとマックスさんが淡々と松明を投げつける。しばらくすると、松明の火が移り、動く藪は燃え上がり始めた。


「気をつけて。燃えているところに巻きつかれたら、最悪よ」


ララベルさんは、膝をついてうなだれているジャヴさんを、槍の石突でつつく。

動く藪は、燃えながらもしばらく動き続けていたが、幹に火がつくと、ついに活動を停止した。燃える匂いや木の中の水分が爆ぜる音など、最後まで普通の木と変わらないところが、かえって不気味だった。


「念のため、少し周囲を見て回りましょう。何事もなければ、出発します」


森に深く入ることまではしなかったが、特に呪いが濃い場所や変異呪種は見当たらなかった。

緑豊かな自然は、表面上は変わらぬ様相を見せていた。


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