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アーツ・ホルダー  作者: 字理 四宵 
第二章 傷が癒えるまで
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傷が癒えるまで -5

「その男の言うことを鵜呑みにするわけではないが・・・」


カール少佐は、地面にうつぶせのまま倒れているジャヴを指さす。


「アーツ・ホルダーだから、あの山から生還できたというのは、説得力があるな」

「しょ、少佐、この者は夜勤明けでして、いささか言動と情緒に怪しいところが・・・」


ララベルさんが話の流れを変えようとするが、カール少佐は取り合わない。


「ララベル」

「・・・はい」

「その者、レイルの怪我が完治し次第、アーツ・ホルダーの審査を受けさせること。これは、命令である」

「・・・」

「剣精からの報告次第で、コボル隊への処遇を決める。コボル警備長にも伝えておくように。以上だ」


がっくりとうなだれるララベルさんに、僕は声をかけられなかった。口を開こうとするが、大黒猿の話題になった時に出たアドレナリンとマナが、上手く収まらない。僕は自分で自分の体の異常に、驚いていた。


「レイル君・・・マナが、乱れちゃったね。後で湿布を新しいものにしよう」

「あの湿布は・・・怪我の治療以外に、何か効能があるんですか」

「・・・」

「今は、妙に心がざわつくというか・・・でも、弟が見つからないのに、落ち着いているほうがおかしいような気がするんです」

「ごめんなさい・・・あなたは入院してからずっと、夜中にうなされていたの。だから、リンダが薬草に精神安定効果があるものをブレンドしてもらったの」

「そう・・・だったんですか」

「その効果が切れてきたのね。一度、コボル警備長と集まって話をしましょう。湿布を使い続けるのかとか、アーツ・ホルダーの話もしなきゃいけないわ」

「・・・はい」


僕は、力なく頷いた。湿布の効果が切れたのか、観光気分は吹き飛んでいた。ララベルさんと二人、帰り道の口数は少なかった。

ジャヴさんは、道に置いて帰った。


夕方。業務が終わったコボル警備長と、ララベルさんと、リンダさん。そして僕が病院の一角に集まった。


「・・・まず、レイル君。怪我の調子はどうだ」

「順調です。後一週間くらいで、ギプスが取れるとか」

「うん、何よりだ。では、本題に入ろう。まず・・・そうだな。湿布の鎮静剤をやめたいらしいな」

「はい。頭がぼんやりとするのが、嫌なんです。弟のことをあまり考えられなくなる」

「あの薬は・・・あんたが、うなされるから処方してもらったんだよ。今は、体を休めるのが最優先だと、思って・・・」


リンダさんが、弱弱しい声で説明する。


「はい。ララベルさんから聞きました。僕を思ってのことだと思います。・・・でも、ちゃんと、考えたいんです。色々なことを」

「リンダ、どうだ?」

「本人が、そういうなら・・・」


渋々と言うリンダさんに、コボル警備長が頷く。


「では、湿布は他の種類のものに変えてもらおう。次に、アーツ・ホルダーの試験の件だ。レイル君、アーツ・ホルダーについては、知っているか?」

「アーツを編み出した人・・・ですよね」

「正解だ。だが、不十分だ」


コボル警備長はいったん言葉を切る。


「この国では・・・いや、世界のどこの国でも、アーツ・ホルダーは身分を保証され優遇される。それは、国家の利益になるからだ」

「アーツが・・・ですか?」

「そうだ。国のお偉いさん達は、アーツ・ホルダーの数を国家で競い合っている。・・・なぜだか、わかるか」


僕に浮かんだ答えは、あまりいいものではなかった。・・・が、おそらく、正解だろう。


「戦争ですか」

「そうだ。優れたアーツがその国にあり、兵士がそれを覚えれば、兵士が相手を殺すレートと、殺されるレートが変わってくる。軍の士官達の授業では、国が持っているアーツの数を「掛け算」として教えるそうだ。同じ兵士1万でも、アーツを持っているほうが勝つからな」

「つまり、カール少佐も僕にアーツ・ホルダーの可能性がある以上、すぐに問題にはできない・・・ということですか」


コボル警備長が頷く。


「アーツ・ホルダーとして認められると、地位や収入は安定する一方、国籍を変えられなくなる。軍籍か、それに準ずる職につくことになるな。・・・それを嫌がって、あえてアーツ・ホルダーにならない人もいる。・・・君はまだまだ若い。アーツ・ホルダーは名誉であると同時に、将来を束縛するものでもあると、覚えておいてくれ」

「SSLにも、一人アーツ・ホルダーがいるのよ。一応、国家の組織だから」

「自分のアーツを作って、歴史に名を残すのは、武術をやっている人間の一つの目標なのは間違いない。ララベルやジャヴも、日夜研鑽している」


ララベルさんが、頷く。コボル隊長は、ソファに深く腰掛けなおした。


「おおよその話は、理解できたかな」

「はい」


山にいた時は、まったく耳に入ってこなかった知識だった。

アーツ・ホルダーが、そこまで国から重要視されているとは、意外だった。もしかすると、父が情報を選んで子供に伝わらないようにしていたのかもしれない。


「コボル警備長は、僕が山から下りてきたとき、僕がアーツを持っていると考えたんですか?」


僕は、コボル警備長の目を見る。


「いいや。・・・俺としては、君がアーツ・ホルダーの可能性があってもなくても、どちらでもよかったよ。国にバイオハザードが起きて、一人の男の子が巻き込まれた。・・・それだけだった。その子が何かを持っているのか、ただ運がいいだけだったのかを考える暇はなかったよ」


目線が動かない。恐らく真実を言っているのだろう。


「後、話していないことは・・・そうだ、試験のことだな」

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