表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アーツ・ホルダー  作者: 字理 四宵 
第十五章 旅立ち
158/200

旅の記録 -2

少しうとうととしたところで、ララベルさんに起こされた。両脇を見ると、ジャヴさん、マックスさんが僕を挟んでいびきで会話をしている。

僕はララベルさんと目を合わせると、二人を起こさないように静かにテントから出る。

テントの外は冷え切っていて、空を見上げると星々が必死にきらめいていた。


「じゃあ、薪を拾ってくるね」

「……はい、お願いします」


ララベルさんは、燃えている薪を数本まとめて松明を作ると、夜の森へと歩き出した。

僕はその間、火を絶やさないようにしつつ、馬の様子を見たり、ナイフの点検をしたりする。

夜に屋外にいると、夜勤をしていた頃のことを思い出す。剣精の特訓を受けていた時も、こうして寒空の下でナイフを見ていた。


「自分の使う武器の手入れは欠かすなよ」


そんな、剣精の言葉が聞こえてきそうだった。


すぐに、ララベルさんが一杯の薪を脇に抱えて戻ってきた。

二時間の交代には、十分すぎる量だ。


「多いですね」

「ジャヴのやつに火の番をさせると、猛烈な勢いで燃やしちゃうから、多めにね」


僕と交代をして、そのままテントに入るかと思ったが、ララベルさんは僕の横に腰掛けた。


「あれ、まだ寝ないんですか?」

「行動記録をとらないといけないからね」


そう言って、分厚い手帳を取り出して記入を始める。一人の時は、他にも色々と仕事をしていたのだろう。


「大変ですね」

「コボル顧問も、やってたからね。私だけ頑張ってるわけじゃないよ」


焚火の揺れる光は書き物には向いていないと思うのだが、淡々とこなしている。実力で言えばジュリアさんの方が上のようだが、コボル顧問の次の隊長に選ばれたのは、こうした真面目な性格があるのだろう。


「今回は、隊長になって最初の遠征だからね。張り切ってるんだ」

「何事もないといいですね」

「そうだね……」


ララベルさんの返事からは、安易な希望を持たないという姿勢が感じられた。警戒というよりは、覚悟といったほうが、しっくりくる。


「よし、と。そろそろ寝るね。後はよろしくね」

「はい。お疲れさまでした」


仕事が終わったのか、ララベルさんは立ち上がって土を払うと、女子のテントへと向かった。


「寒いよう。寝れなかったよう」


女子のテントから、ジュリアさんの声が聞こえてくる。


「こら、くっつくな」

「だって、寒すぎるんだよー。こっちのテントは一人になるタイミングがあるからいけないんだよ。明日から、レイル君もこっちのテントにしようよ」


女子のトークは、テントのドアが閉められたことで急に聞こえなくなった。

しばらくは何か話していたようだったが、やがてそれも聞こえなくなる。

一人になった僕は、火を絶やさないようにしながら、時間を持て余していた。ジュリアさんの言った通り、一人でじっとしていると凍えそうだ。もう少し火に近づき、薪をくべる。確かに、ジャヴさんが火を勢いよくしたくなる気持ちはわかる。


時間が、ゆっくりと流れていく。僕は、マナを操作する訓練を行って時間をつぶした。左手から肘を通り、胴体を通過して右手へ、次は足へといった具合に、全身にマナを流して感覚を確かめる。

集中しているとあっという間に時間になった。眠そうなジャヴさんを起こし、交代をする。


「おう……時間か。さみーな」


テントの中でも、当たり前に息が白かった。


「じゃ、薪を拾ってきますね」

「おう、多めで頼むわ」


まだぼんやりしているジャヴさんを置いて、僕は松明を照らしながら森に入る。月と星の光すら入らない場所がある森の中は、本能的な恐怖を感じる。任務のためならできるが、万が一松明が消えると思うとぞっとする。

片手に松明を持っているので、僕の手では一度に多くは運べない。何回かに分けてジャヴさんのところへと持って行った。そのたびに、火の前で舟をこぐジャヴさんを起こすことになる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ