旅立ち -6
南門へ向かうために、馬をひいて首都を突っ切っていると、見知った顔に出会った。
「お、レイルじゃないか。どうしたんだ、馬なんかに乗って」
志位さんが、いつの間にか横について歩いていた。任務中なので、小声で会話する。
「こんにちは。ちょっと、任務で外出することになりまして」
「ほう」
志位さんは、隊列とそれぞれの荷物をジロジロと見回す。嫌な予感がする。
「よし、僕も連れてけ」
迷いのない言葉だった。
「えっ、ダメですよ」
「大丈夫だ。この寝袋に入っているから、気にしないでくれ」
馬が背負っている、僕の寝袋に入り込もうとする。
「ダメですよ、ダメ! サさんに怒られますよ」
僕は前にいるララベルさんの方を見る。まだ、こちらに気づいてないようだ。後ろのジュリアさんは、ニヤニヤしながらこちらを見ている。戦闘以外、全く頼りにならない人だ。
「じゃ、馬を借りてついていくから、どこに行くか教えておくれ」
「さっきも言いましたが、任務なんですよ。すみませんが、特に外国の人に知られたらまずいんですって」
「ふーん」
口を突き出し、つまらなそうな顔をする。もう一度隊列を見直す。
「よし、わかった」
「わかってくれましたか」
「サに聞いてみれば、行き先がわかりそうなことがわかった」
「え……」
「また後でな!押掛け女房には、よろしくいっておいてくれ」
「あっ、ちょっと!」
志位さんは、踵を返すと別の方向へ走り出してしまった。足音を殺して走っているのに、凄い速さだ。
「あ……」
「行っちゃったね~。どっちが押しかけ女房か、わからないけど」
ジュリアさんが、後ろから話しかけてくる。面白いものをみて満足という表情だ。
「レイル君、今の人はどちらさま?」
僕の後ろを歩いていたマックスさんが、恐るおそる聞いてくる。
「ちょっとした知り合いです。任務中に、すみません」
「ううん、困ってたみたいだから……ごめんね、僕、知らない人は怖くて」
「大丈夫ですよ」
「優しい……」
うなじのあたりに、しっとりとした視線を感じる。出発する前から、なんだか疲れる。
門に着くと、人混みでごった返している。以前に僕が使った北門と違うのは、人の出入りが圧倒的に多いということだ。SSL以外にも、警備にあたる軍人の姿もちらほらと見える。
「私たちは、あっちね」
ララベルさんは、SSLの詰め所を指差す。公人用の出入口がありそうだ。
人の流れを見る限り、入門の審査は入る時は厳しいが、出るときはほとんどノーチェックのようで、非常時でなければ、首都を出るのに苦労はなさそうだ。
簡単な手続きを済ませて城門を出ると、人の列が延々と続いている。端の方を誘導する軍人と、疲れ切った人々の目が印象的だ。
「凄い人の数ですね」
「なんだかんだで、解呪のメッカだからな。人の出入りは世界有数だ。商人用のパスを持っていれば、もう少しスムースなんだが、取得はなかなか難しいらしい」
「あの辺りにいる人は?」
僕は、並んでいる人たちに声をかける男について聞く。
「野良の解呪師だな。この行列を待たずに済む分、高くつく。それに、国の保証もないから腕も怪しいらしいぜ」
SSLの腕章をつけている僕たちとは、決して目を合わせようとしない。僕たちも、今は彼らにかまう時ではない。
広い道に出ると、全員が乗馬した。
「それでは、まずは南の道沿いに進みます。私がペースをつくるので、遅れないように」
ララベルさんは、全員の同意を確認した後、馬を出発させる。ジャヴさんがそれに続いたので、僕も出発をする。
こうして、僕たちの旅が始まった。