表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アーツ・ホルダー  作者: 字理 四宵 
第十五章 旅立ち
153/200

旅立ち -3

ララベル隊ミーティングにて、遠征の概要が伝えられると、各自に遠征への準備資金が手渡された。


「よっしゃ、久しぶりの遠征だな!」


モヒカンを整えながら、ジャヴさんが斧をクルクルと回す。


「来週は、ジャヴは夜勤から外れて準備に当たること。遠征は、遊びじゃないからね。変なもの買って、無駄遣いしないように」

「わかってるっての!」

「SSLは、もちろん首都の警備が仕事だけど、時には民間の依頼で輸送の護衛に当たったり、軍の指示で調査隊として出征することもあるのよ」


ララベルさんが、僕を見て説明してくれた。

コボル顧問から聞いていた内容だったが、首肯して理解していることを示す。


「弓の精か…うーん、あんまり、期待はできないかな」


棍を担いだジュリアさんが、想像を働かせるように頭上に視線をやる。


「お、おい、ジュリア、精霊さんには失礼のないようにするんだぞ。くれぐれも、襲い掛かったりしちゃだめだからな」


ジャヴさんが、慌てて釘をさす。


「なんだ、ジャヴらしくないな。守りに入ったんじゃない?」

「う、うるさいよ。大自然への敬意だよ!」

「剣精様になめた態度をとって、転がされたトラウマがあるのよね」

「忘れろ! 今回は、レイルの試練だろ!」


顔を隠しながら、ぶんぶんと手を振り回す。肩の棘パッドがぐるぐる回って、危ない。


「我が国としても、剣精様の所在を見失った以上、新しいアーツ・ホルダーの審査依頼先を見つけなければいけません。レイル君の試練はもちろん重要だけど、弓精様までのルートをしっかり調査、開拓するのも、今回の任務の目的の一つよ」

「はい」

「おうよ」

「はーい」

「今回は、外国での任務ということで、リスクが高まるということで、SSLから一人応援を頼んでいます」


そう言うと、ララベルさんは部屋の入り口に視線をやった。


「そろそろ来るはずなんだけど……あ、きてた」


その言葉通り、いつの間にか、一人の男がドアの辺りに立っていた。大きな体のわりに、印象のない静かな登場だ。


「みんな、西の隊員のマックスさんよ」


歳は30歳後半だろうか。比較的若いララベル隊の中にいると、一番年上に見える。刈り上げた黒髪に、傷だらけの相貌。突き出た顎と曲がった眉毛。強面のジャヴさんより上背はないが、発達した筋肉と脂肪が巨躯を一層印象づける。


「……」

「……」


マックスさんが何か声を出すと思って待った結果、一同は静まり返ってしまった。


「おい、警備というよりは、カツアゲするような顔だな」

「ジャヴに言われたくないでしょ」


ジャヴさんとジュリアさんが、ひそひそと評価を交換する。


「こら! あんたたち、変なこと言わないの。マックスさん、ごめんなさい、失礼なやつで。隊長のララベルよ」

「あー……。ジャヴだ」

「ジュリアよ。よろしくね」

「レイルです」

「あ、あの、よろしくお願いします」


最後に僕が挨拶を終えると、その見た目に反して、意外とか細い声が返ってきた。


「あ、レイル君の活躍を聞いて、立候補しました。実現して嬉しい! よろしくね!」

「あ、ありがとうございます」

「……レイルにだけテンションたけーな」

「ファンなんじゃない?」

「うーん、羨ましいような、そうでないような……マックスさんよ、獲物は何を使うんだ?」

「あ、え、えと、これです」


後ろに置いてあった「それ」を持ち上げただけで、みしりと音がした。石の床が重みから解放された喜びをあげたようだ。

大きな棘のついた、鋼鉄製のバトルハンマー。ところどころさび付いていて、言い方は悪いかもしれないが、マックスさんによく似合っていた。僕は、それを軽々と持ち上げる膂力がうらやましかった。


「ハンマーか……」

「重そう……」


マックスさんがぺこりと頭を下げて、元の場所に戻す。再び、SSLの床がきしむ。


「おっさんもでかいし……馬がつぶれないといいな」


ジャヴさんのつぶやきに、ララベルさんの顔は引きつっている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ