旅立ち -3
ララベル隊ミーティングにて、遠征の概要が伝えられると、各自に遠征への準備資金が手渡された。
「よっしゃ、久しぶりの遠征だな!」
モヒカンを整えながら、ジャヴさんが斧をクルクルと回す。
「来週は、ジャヴは夜勤から外れて準備に当たること。遠征は、遊びじゃないからね。変なもの買って、無駄遣いしないように」
「わかってるっての!」
「SSLは、もちろん首都の警備が仕事だけど、時には民間の依頼で輸送の護衛に当たったり、軍の指示で調査隊として出征することもあるのよ」
ララベルさんが、僕を見て説明してくれた。
コボル顧問から聞いていた内容だったが、首肯して理解していることを示す。
「弓の精か…うーん、あんまり、期待はできないかな」
棍を担いだジュリアさんが、想像を働かせるように頭上に視線をやる。
「お、おい、ジュリア、精霊さんには失礼のないようにするんだぞ。くれぐれも、襲い掛かったりしちゃだめだからな」
ジャヴさんが、慌てて釘をさす。
「なんだ、ジャヴらしくないな。守りに入ったんじゃない?」
「う、うるさいよ。大自然への敬意だよ!」
「剣精様になめた態度をとって、転がされたトラウマがあるのよね」
「忘れろ! 今回は、レイルの試練だろ!」
顔を隠しながら、ぶんぶんと手を振り回す。肩の棘パッドがぐるぐる回って、危ない。
「我が国としても、剣精様の所在を見失った以上、新しいアーツ・ホルダーの審査依頼先を見つけなければいけません。レイル君の試練はもちろん重要だけど、弓精様までのルートをしっかり調査、開拓するのも、今回の任務の目的の一つよ」
「はい」
「おうよ」
「はーい」
「今回は、外国での任務ということで、リスクが高まるということで、SSLから一人応援を頼んでいます」
そう言うと、ララベルさんは部屋の入り口に視線をやった。
「そろそろ来るはずなんだけど……あ、きてた」
その言葉通り、いつの間にか、一人の男がドアの辺りに立っていた。大きな体のわりに、印象のない静かな登場だ。
「みんな、西の隊員のマックスさんよ」
歳は30歳後半だろうか。比較的若いララベル隊の中にいると、一番年上に見える。刈り上げた黒髪に、傷だらけの相貌。突き出た顎と曲がった眉毛。強面のジャヴさんより上背はないが、発達した筋肉と脂肪が巨躯を一層印象づける。
「……」
「……」
マックスさんが何か声を出すと思って待った結果、一同は静まり返ってしまった。
「おい、警備というよりは、カツアゲするような顔だな」
「ジャヴに言われたくないでしょ」
ジャヴさんとジュリアさんが、ひそひそと評価を交換する。
「こら! あんたたち、変なこと言わないの。マックスさん、ごめんなさい、失礼なやつで。隊長のララベルよ」
「あー……。ジャヴだ」
「ジュリアよ。よろしくね」
「レイルです」
「あ、あの、よろしくお願いします」
最後に僕が挨拶を終えると、その見た目に反して、意外とか細い声が返ってきた。
「あ、レイル君の活躍を聞いて、立候補しました。実現して嬉しい! よろしくね!」
「あ、ありがとうございます」
「……レイルにだけテンションたけーな」
「ファンなんじゃない?」
「うーん、羨ましいような、そうでないような……マックスさんよ、獲物は何を使うんだ?」
「あ、え、えと、これです」
後ろに置いてあった「それ」を持ち上げただけで、みしりと音がした。石の床が重みから解放された喜びをあげたようだ。
大きな棘のついた、鋼鉄製のバトルハンマー。ところどころさび付いていて、言い方は悪いかもしれないが、マックスさんによく似合っていた。僕は、それを軽々と持ち上げる膂力がうらやましかった。
「ハンマーか……」
「重そう……」
マックスさんがぺこりと頭を下げて、元の場所に戻す。再び、SSLの床がきしむ。
「おっさんもでかいし……馬がつぶれないといいな」
ジャヴさんのつぶやきに、ララベルさんの顔は引きつっている。