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アーツ・ホルダー  作者: 字理 四宵 
第十五章 旅立ち
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旅立ち -2

「弓の精霊は、ここから南西に行った国にある。SSLの人間は公人という身分だし、アーツ審査目的の入国は入国のチェックも緩いことが多いが、油断はするな」

「はい」

「ララベル隊と、護衛にSSLから腕のいいやつをつけていくといい」

「え……そんなに、大人数なんですか」


僕は驚いて聞いてしまう。正直、一人旅くらいなものだと思っていた。


「当たり前だ。外国で何かがあっても、誰も守ってくれない。自分の身は自分で守らなければならなくなる。チームを組んで全員で協力しないとならないだろう」


僕を叱ると、コボル顧問は車いすに深く腰掛けなおした。


「……レイルに会ったのも、コボル隊の遠征だったな。懐かしいというほど時間はたっていないが……それでも、早いものだな」

「あの時コボル隊に助けられなければ、どうなっていたことか……」

「よしてくれ。そういうことを言いたいんじゃない。あの時は、それしか考えられなかった。それだけだ」

「……」

「ただ……」

「ただ……?」

「いや、なんでもない。アッシュ警備長には、私から口を利いておこう」

「はい」


それ以上は、聞かない方がいいような気がして、僕は口をつぐむ。現役を退かざるを得なかったコボル顧問の口から出る言葉は、恐ろしくて深追いする気になれない。

北の警備区域は、アッシュ警備長が正式に引き続き、東と兼務で担当をしている。

立場としてはコボル顧問の上司に当たるのだが、まだまだコボル顧問には頭が上がらないらしい。


「ララベル隊長は、元気にしているか?」

「はい。忙しそうにしていますが」

「隊長の業務は、事務作業も多いからな。肩も凝るだろう。今回の遠征で、少し気分転換になるといいが」

「確かに……」

「私が隊長だった時、私をサポートするのがララベルだったが、今のメンバーでララベルをサポートする人間は、……かろうじてレイルくらいだろう」


僕は、ジャヴさんとジュリアさんの顔を思い浮かべる。確かに、どちらもララベルさんを補助するタイプの人間ではない。


「部下が育たないと、上司も成長できない。チームでの活動を機に、彼等にその意識が芽生えてくれるのを、願っているよ」


遠征に際して、そこまで考えていたのか。一線から退いたとはいえ、コボル顧問は自分の隊員だったメンバーを、今も気にかけてくれているのだと思い、頭の下がる思いだった。


「ありがとう。すまないが、妻を呼んでくれないか」


家の前に着くと、コボル顧問は呼び鈴を指差した。

僕は言われる通りに、ドアについているベルを鳴らす。少しすると、ドアから黄色い光か溢れ、家の中から年上の女性が出てきた。コボル顧問の奥さんだ。


「レイルさん、いつもすみません」

「いえ……これくらい」


監督業務の後のコボル顧問を送るのが、僕のいつもの仕事だった。この時代、まだまだ道はでこぼこで、車椅子は自力で走行するのには大変だった。おかげで奥さんとも顔見知りになったが、どこか他人行儀でよそよそしい感じは、ずっと変わりがない。直接の原因ではないにしろ、僕に対して思うところがあるのも事実なのだろう。奥さんと一緒に車椅子を持ち上げ、ドアの前の小さな階段を登る。210cmの体を持ち上げるのは、奥さん一人では無理だろう。


「それじゃ、ここで……」

「はい、ありがとうございました」

「いえ……」


奥さんは僕を一瞥した後はほとんど視線を合わせないまま、静かにドアを閉める。室内から溢れていた暖かい空気が、途端に掻き消えた。

僕は凍える手をこすりながら、寮へ向かう。異国への旅立ちのこと、そして、そのための準備のことを頭に浮かべて。

長い入院生活の間に、色々と次の戦いへの準備はしてきた。使う機会がないほうがいいのは間違いないが、それを無駄にしたくないのも、事実だった。


新しいアーツ、新しい武器。次の死闘を望んでいるといわれても、仕方がないのだろう。奥さんの、僕を見る目が、頭から離れない。あの、不吉なものを見るような目。


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