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アーツ・ホルダー  作者: 字理 四宵 
第二章 傷が癒えるまで
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傷が癒えるまで -4

僕は、答え方を探していた。フォローが難しいのか、ララベルも黙ってこちらを見ている。

その場の沈黙を破ったのは、いままで何も喋らなかったジャヴさんだった。


「あのー・・・いっすか?」


天に一本、柱を立てるように、すっと手を挙げて、一座の注目を集める。


「カール少佐。実は、お耳に入れたい情報がありやすぜ」

「・・・なんだ、このチンピラは」


カール少佐が部下に尋ねるが、皆、首を振る。本当に知らないのか、絡まれたくないのか。


(ちょっと!ややこしくなるから、黙って寝てなさいよ!)


ララベルさんが複数回、高速でジャヴのふくらはぎに蹴りを入れているが、マナでガードしてるのか、ジャヴさんの体幹は揺らがない。


「いえね、報告書を読んだカール少佐はお気づきかなーと、思うんですがね、あ、やっぱり、余計な事かな、ひょっとして」


いっけね、と、わざとらしく口に手を当てて言葉を止める。微妙にキャラクターが定まっていないのは、やはり夜勤明けだからだろうか。


「・・・つまみ出されたくなければ、早く話せ」

「へへへ。そこの、小僧なんですがね、実はまだ話していない秘密があるんですよ」


(ちょっと!何言い出すのよ!)

ガガガっと、足元から何かを削るような音がする。


「・・・ほう。とっとと話せ」


ララベルさんの落ち着かない態度が、逆に信用づけたのか。少佐はジャヴさんの言葉を待っている。


「こいつ、レイルが16歳になってすぐ入隊する約束だったのは、訳があってですね・・・あ、でも、コボル隊長に口止めされてたんだっけかな?」


人差し指を顎にあてて、あれ? と首をかしげる。このモヒカン男は、どこでこんなポーズを覚えたのか。


「いいから、早く言えっ! コボルを軍に呼びつけてもいいのだぞ!」

「えー、オホン。わかりました。喉の調子が悪かったので、引き伸ばしたことをお詫びいたします。この小僧が持つ秘密、それは・・・」


・・・ごくり。全員が、固唾をのむ。ジャヴさん以外、誰もその先の言葉を知らないのだ。味方のララベルさんや僕も含めて。


「ズバリ!こいつは、アーツ・ホルダーの可能性が、あったんですよ!」

「・・・!」

「アーツ・ホルダー・・・!」


その場にいた人間に、衝撃が走る。その言葉の重みをよく知らない、僕を除いて。

皆のリアクションに気をよくしたのかジャヴさんは、テンションを上げて言葉を続ける。


「われわれコボル隊は、こいつの父上から剣技の才能について、聞かされていました・・・そして、アーツの可能性も。そこで、こいつを早めにスカウトしてたって、わけなのです」

「いや・・・しかし・・・この若さで・・・」

「そこです!通常なら、まだまだ修行中の身。しかし、彼は山育ちの中で、激しい訓練を行っていたのです」


むぅ、とカール少佐は口ひげを数本抜いた。アーツ・ホルダーという言葉は、僕が思っている以上に価値があるようだ。

もちろん、この出鱈目に僕は戸惑っていた。話を合わせればいいのか、逆にコボル隊に迷惑がかかるんじゃないのか、わからない。


「大黒猿を複数相手にして生き残ったのは、その証!聞くところによると、今回の遠征では軍隊にも犠牲者が出ているとか・・・?」


軍隊にも、犠牲者が・・・それは、初耳だった。現場の後処理と生存者の確認が進まないのは聞いていたが、橋の修繕に時間がかかっているのだと、説明を受けていた。

今この時も、大黒猿が人に危害を与えているかもしれない。そう考えると、ぞわりとうなじの毛が逆立つ。

あの日の焦燥感、怒り、悲しみが、胸を染め上げる。


そうだ、僕はのんびりとなど、していられない。早く、あいつらを皆殺しに・・・

体中のマナが、沸騰し始める。瞳孔が開きはじめて、辺りの光が強くなっていく。

ゴンと、大きな音がした。ジャヴさんが倒れている。ララベルさんが蹴り倒したのだろう。どんな恐ろしい急所を突いたのか分からないが、横たわった体はピクリとも動かない。


「うちのモヒカンが、失礼をしました。少佐、この続きはまた後日に改めて・・・」


そういうと、片手でモヒカンの先の方を掴んでジャヴさんを運んでいこうとする。


「待て」


引き留める少佐の顔は、穏やかではない。


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