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アーツ・ホルダー  作者: 字理 四宵 
第十四章 入院
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入院 -4

「要するに、レイル君は自分自身の評価が周りの人と差があって、戸惑っているんだねー」

「……そうかも、しれません」

「周りが大事に思ってくれるほど、自分に、そんな価値があるのかとわからなくなってしまう。だから、どんどん無茶をしてしまうんだ」

「……」

「残念だけど、それはやっぱり、ご家族が亡くなったことが関係あると思うよ」

「家族が……?」

「うん、無償の愛を与えてくれるご家族がいなくなって、自分というものの価値がわかりにくくなっちゃったんだね」


僕は、否定できない。言葉で胸を刺された気がして、何も言えなかった。


「すげえ……なんか、それっぽい」


表情は見えないが、ジャヴさんもジュリアさんの分析に驚いているようだ。


「その……、僕はどうすればいいでしょうか」

「そうだね。一番簡単なのは、ガールフレンドを作ることかな」

「ええっ!?」


今の声は、足元から聞こえたものだ。


「結婚しちゃえとは言わないからさ、レイル君が死んだらご飯も食べられなくなるような人を見つけて、毎日その人から自分の価値を教えてもらうといいんだよ。それこそ、色々な方法で」

「そ、そんな人いますか?」

「いるいる。自分はこの人のために生きているとか、この人を支えるために生きたいとか、そういうのを重ねないと、レイル君はまた無茶しちゃうと思うな」

「……」

「そういう毎日の積み重ねだよ、大事なのは」


そう言って、ジュリアさんは僕のベッドに腰かけた。


「ジュリアさんは、どうしてそんなに……」


心が読めるのですかと聞こうとして、やめた。答えはきっと、ジュリアさんも同じような人間だからだ。


「うん、私も似たようなものなんだけどね。レイル君と違って腕がついてきてるからなー。なかなか怪我はしないなー」

「う……」


悔しいが、言い返せない。今やコボル隊で一番の実力者のジュリアさんに言われると、歯に衣着せぬ物言いも納得できてしまう。


「というわけでさ、ララベルがアホな男に引っかかる前に、レイル君がもらっちゃうのもいいんじゃないー?」

「な、なんでそこでララベルさんの名前が……」

「ひひひ……同じ職場なんだから、理解のある奥さんになるんじゃないかな。二人で夜勤の間に抜け出したりしてさ。うひひひ」


ジュリアさんは、下卑た笑いを口からこぼす。


「わたしが、どうしたの?」

「うわあっ」


ジュリアさんが飛び上がる。僕も、驚いて傷口が開きそうになる。


「ララベル、いつのまに!」

「なに、そんなに驚いて。……レイル君、目が覚めてよかった」


僕は、頭を下げる。変な話をしていたせいか、なんとなくララベルさんの目を見られなかった。


「……リンゴ、食べる?」

「あ……リンゴですか」


そういえば、あの植物使いの男に投げつけたのも、リンゴだった。ララベルさんがいつものように持ってきてくれなかったら、突破口がないままやられていたかもしれない。


「いただきます……」

「よかった。じゃ、皮をむくね」

「ララベル! 俺にも! 俺にも!」


起き上がるほどには回復しないのか、ジャヴさんが寝たまま騒ぎ出す。ガタガタと海獣のように暴れるジャヴさんをみて、ララベルさんはため息をつく。


「こいつは、なんで床に寝てるの?」


槍の石突でジャヴさんの顔の横の床を叩きながら、ララベルさんは僕に尋ねた。


「ちょっとうるさくして、リンダさんに……」

「そう。じゃ、あんたは皮でいいね。落とさず食べるのよ」

「はいっ!」


嬉しそうに返事をするジャヴさん。なんだかんだで、この二人は息が合っている気がする。


「ふふ……」


ジュリアさんが僕を見て、ニヤニヤ笑うのが、やりづらい。

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