入院 -4
「要するに、レイル君は自分自身の評価が周りの人と差があって、戸惑っているんだねー」
「……そうかも、しれません」
「周りが大事に思ってくれるほど、自分に、そんな価値があるのかとわからなくなってしまう。だから、どんどん無茶をしてしまうんだ」
「……」
「残念だけど、それはやっぱり、ご家族が亡くなったことが関係あると思うよ」
「家族が……?」
「うん、無償の愛を与えてくれるご家族がいなくなって、自分というものの価値がわかりにくくなっちゃったんだね」
僕は、否定できない。言葉で胸を刺された気がして、何も言えなかった。
「すげえ……なんか、それっぽい」
表情は見えないが、ジャヴさんもジュリアさんの分析に驚いているようだ。
「その……、僕はどうすればいいでしょうか」
「そうだね。一番簡単なのは、ガールフレンドを作ることかな」
「ええっ!?」
今の声は、足元から聞こえたものだ。
「結婚しちゃえとは言わないからさ、レイル君が死んだらご飯も食べられなくなるような人を見つけて、毎日その人から自分の価値を教えてもらうといいんだよ。それこそ、色々な方法で」
「そ、そんな人いますか?」
「いるいる。自分はこの人のために生きているとか、この人を支えるために生きたいとか、そういうのを重ねないと、レイル君はまた無茶しちゃうと思うな」
「……」
「そういう毎日の積み重ねだよ、大事なのは」
そう言って、ジュリアさんは僕のベッドに腰かけた。
「ジュリアさんは、どうしてそんなに……」
心が読めるのですかと聞こうとして、やめた。答えはきっと、ジュリアさんも同じような人間だからだ。
「うん、私も似たようなものなんだけどね。レイル君と違って腕がついてきてるからなー。なかなか怪我はしないなー」
「う……」
悔しいが、言い返せない。今やコボル隊で一番の実力者のジュリアさんに言われると、歯に衣着せぬ物言いも納得できてしまう。
「というわけでさ、ララベルがアホな男に引っかかる前に、レイル君がもらっちゃうのもいいんじゃないー?」
「な、なんでそこでララベルさんの名前が……」
「ひひひ……同じ職場なんだから、理解のある奥さんになるんじゃないかな。二人で夜勤の間に抜け出したりしてさ。うひひひ」
ジュリアさんは、下卑た笑いを口からこぼす。
「わたしが、どうしたの?」
「うわあっ」
ジュリアさんが飛び上がる。僕も、驚いて傷口が開きそうになる。
「ララベル、いつのまに!」
「なに、そんなに驚いて。……レイル君、目が覚めてよかった」
僕は、頭を下げる。変な話をしていたせいか、なんとなくララベルさんの目を見られなかった。
「……リンゴ、食べる?」
「あ……リンゴですか」
そういえば、あの植物使いの男に投げつけたのも、リンゴだった。ララベルさんがいつものように持ってきてくれなかったら、突破口がないままやられていたかもしれない。
「いただきます……」
「よかった。じゃ、皮をむくね」
「ララベル! 俺にも! 俺にも!」
起き上がるほどには回復しないのか、ジャヴさんが寝たまま騒ぎ出す。ガタガタと海獣のように暴れるジャヴさんをみて、ララベルさんはため息をつく。
「こいつは、なんで床に寝てるの?」
槍の石突でジャヴさんの顔の横の床を叩きながら、ララベルさんは僕に尋ねた。
「ちょっとうるさくして、リンダさんに……」
「そう。じゃ、あんたは皮でいいね。落とさず食べるのよ」
「はいっ!」
嬉しそうに返事をするジャヴさん。なんだかんだで、この二人は息が合っている気がする。
「ふふ……」
ジュリアさんが僕を見て、ニヤニヤ笑うのが、やりづらい。