入院 -3
僕は左腕を動かしてみて、握力がほとんどないことに気が付いた。先の戦いで深いところまで切られたのでしょうがないのかもしれないが、仮に握力が戻らないなら、次の戦い方を考えなければいけない。絶望はない。課題を与えられただけで、それについて考えなくてはいけない。
治るのは、足、胸、右手、左手の順だろうか。その間の調整を、剣精にお願いしたほうがいいだろう。
「・・・また、戦いのことを考えているのかい」
リンダさんが心配そうな顔をして、僕を見ている。
悪いと思いながらも、僕はうなずく。
「まだまだ若いのに、どうして、そんなに戦いのことばっかり・・・」
「・・・」
リンダさんの問いは、当然のものだとは思うが、僕は上手く返答を言葉にできなかった。ジャヴさんも、茶化さずに黙って聞いている。
「同い年で、働いている子はいるだろうけど・・・こんなに危険なことばかりをしている子はいないよ・・・」
「・・・」
いつもの気丈な表情はどこかへ行き、泣きそうな顔になっている。
「SSLだって、怪我をしてやめる人間は多いんだ。レイル君も、つらいと思ったらいつでも・・・」
「リンダさん、僕は・・・」
僕は、リンダさんの願いを遮る。
「やめたいと思ったことはないですよ。傷が治ったら、すぐにでも復帰するつもりです」
リンダさんは、僕の顔を見つめる。少なからず、ショックを受けたようだ。
「そうかい・・・なら、勝手にしな!」
勢いよく扉を閉めて、リンダさんは出て行ってしまった。
「その・・・なんだ」
床の方から、僕を気遣う声が聞こえる。
「わかっているとは思うが、皆心配してるんだぜ」
「ええ・・・そうですね・・・わかっては、いるんですけど」
そう、皆が僕の体と命のことを気遣ってくれているのは、わかっている。僕が自分で自分を思っているよりも、ずっと気にかけてくれているのだ。だが・・・。
自分と周りのギャップを、上手く説明できないのがもどかしかった。
「ふふふ・・・つらいね、レイル君」
どこからともなく、声が聞こえてくる。
「だっ誰だっ!」
「ジュリアさんですよ」
「いや、わかってるけど・・・」
リンダさんが去った後、扉の所にジュリアさんが腕組みをして立っていた。
「リンダが泣きながら出ていったよ。君も、罪作りじゃないか」
「・・・」
「凡人にはわからない苦しみだよねぇ・・・うんうん。特に、そこのモヒカンみたいな、ザ・凡人には」
「だ、誰が凡人かね! 失敬な!」
ジャヴさんが寝ころびながら気色ばむ。
「あんた、意外と常識人じゃん。ほめてるのよ」
「え、そう? へへへ」
「うん。まあ、小さくまとまっているというか・・・」
「へへへ・・・そ、そうかな・・・」
「ジャヴさん、そこまで照れるほど、ほめられてないですよ」