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アーツ・ホルダー  作者: 字理 四宵 
第十三章 刺客
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刺客 -11

男は一瞬ひるんだが、すぐに気勢を取り戻す。


「へ、へ。な、なんも、できねえだろ」


事実、親指が機能しない今、ナイフを強く握ることができない。仮に間合いまで近づくことができても、大した傷を与えられないだろう。


僕は、男に手傷を負わせる方法をひたすら考えている。

体当たりをして、押し込むか・・・その前に袈裟切りにされるだろう。

足を使って押し込むか・・・この足では、それも難しい。

口を使う? 無理だろう。

・・・何かないか、何かないか。

死ぬのはしょうがない。だが、無駄死にはしたくない。せめて、皆に敵をとってほしい。僕の体の中で使える部分はないか。


男のススキに完全にマナが通り、硬度を持つようになった。縦横無尽の変則的な動きが、またしても僕の目の前で活動を開始する。

これだけの殺傷力を、ただ振り回すだけで使えるのだから、うらやましいというよりほかない。

僕は巻き込まれないように右手に持っている赤いナイフを引く。握力がないので、男の刃がかすっただけで弾き飛ばされる恐れがある。

男の武器は高速だが、武器自体は細い。防御には向いていない武器なのだ。例えば投擲をはじくことも苦手なはずだ。そこを突ければ・・・


その瞬間、僕の脳裏にばらまかれていたピースが急速に寄せ集められる。


ナイフを握れない右手、僕の体で使える部位、男の武器の特性。

たった一つのプランを、何度もシミュレートする。

急に頭を使ったからか、目まいが僕に警告をする。失血が激しい。動ける残り時間は、ごくわずかだ。


これが、最後の行動になるだろう。息を大きく吐いて、その後深く吸う。志位さんらに習ったばかりの息吹を使い、体に最後の火を入れる。

残るマナをかきあつめて、一部に集中させた。


「動くな、動くな。動くなよー。余計に痛いぞ」


にじり寄ってくる男は、あやすように腰を低くし、僕から視線を外さない。

勝ちが濃厚になっても、油断は見せない・・・というよりも、これからの展開を楽しみにしているのか。笑みが隠しきれていない。


「ここまで、きて、アーツを使わないんだから、もう、使えなくなってる・・・だろ?」

「・・・」


僕は無言のまま、使えなくなった左手を顔の高さまで上げ、右手のナイフを、静かに体の方へ引く。

ナイフを引いたのだから、その予備動作の後に来るのは、突き。そう思い込んでくれることを願って、僕は・・・

腰のマナを使い、渾身の捻りを作ると、ナイフの柄頭を左手の肘で叩いた。


「んえ」


高速で飛び出したナイフは、とっさに防御に向かったススキの刃の横を通り抜け、そのまま男の眼球に突き刺さる。


「んがあああああ」


絶叫が病室に汚らしく飛び散る。

すでに一歩前へ飛び出していた僕は、男が引き抜こうとするナイフめがけて頭突きをして、眼底の奥へと押し込む。

足に踏ん張りがきかない僕は、男と一緒に床に倒れる。

僕は、しばらく倒れたまま動けなかった。男は、そのまま置物のように動かなくない。


「勝っ・・・」

「うおおおお!」

「うわっ」


ビクンビクンと痙攣をした後、男は叫びだした。

息を吹き返した男は、絶叫を続ける。半狂乱というよりは・・・意識があるのかないのか、わからない。

男の上にまたがっている僕は、右の手のひらを使って、もう一度ナイフを押し込む。

頭蓋へと侵入するナイフ。手のひらになんとも言えない感触が残ったが、それが命の奪い合いを制したのだという実感に代わる。

右手を突き上げると、勝利の咆哮が喉まで出たかったが、そのまま倒れた。

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