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アーツ・ホルダー  作者: 字理 四宵 
第十三章 刺客
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刺客 -10

僕は、床に落ちているリンゴを男の方へと蹴り上げた。


「ぬっ!」


男はリンゴを切らずに避ける。植物にマナを入れて硬化した武器は、対象も硬化してしまう。そう仮説をたて、男の技は植物を切るのに向いていないと予想したのだが、それが当たったのだろうか。ともかく、この戦いで初めて男の動きが大きく乱れた。これが千載一遇、最後のチャンスかもしれない。

一か八か、僕は腕にマナを集中させて男の方へと突っ込む。

今までの戦いでわかったのは、男の武器は、質量が増えたわけではない。切れ味が異常になったというだけだ。


「んむっ!?」


僕の行動に驚いたのか、男は大袈裟にススキを振り下ろす。僕は、予定通りに左腕を突き出す。男の一撃を、マナを張り巡らせた筋肉で受け止め、自由を奪う。その隙に、右手のナイフで男を刺す。これが、僕の考えであり、その時思いつく唯一の作戦だった。

アドレナリンとマナが全開になり、極度に集中している僕には、あらゆる景色がゆっくりと見えている。

見慣れた僕の腕に、金色の美しい線が割り込んでいく。バターを割るように、僕の腕が横断されるのが見える。その非日常的な内容に見入ってしまったが、呆けている場合ではない。腕に力を入れ、筋肉を引き締める。骨の辺りで止まってくれれば、勝機が出てくる。


ススキの刃は、僕の肘の上の辺りの筋肉を突破していく。その速度ゆえにか、出血はまだない。そのまま橈骨に達し、この辺りで止まるかと思いきや、そのまま突き進んでいく。

まさか、このまま腕を切断されてしまうのか。そう思ったときに、尺骨の辺りでビタリと刃の進行が止まった。刹那の後に、行き場を失った血が腕から噴き出す。

僕は骨の中に刃が入った状態のまま左手を外側に捻り、男の体勢を崩す。そして、右手に持ったナイフを喉元につきつけようとする。

だが、一縷の希望となっていたナイフを持つ右手の親指を、男に掴まれてしまった。無理もないことだが、僕の行動にはほとんど選択肢がなく、この動きは想定されていたようだった。


「う・・・く・・・」

「へ、へへ」


脱臼か、骨折か、わからないが、親指があらぬ方向に曲げられる。男は、すかさず距離をとり、別のススキを取り出しなおした。

この指では、右手でナイフを強く握ることができない。左手は骨が見えるほど深く切られ、足にも負傷をしていて、技が封じられている。おまけに言えば、胸の傷もかなり前から開いて流血している。

痛みにあえぎながら、僕は苦笑してしまう。万策尽きた。これはもう、どうしようもないではないか。そんな考えも出てきてしまう。


「終わり、だな。手こずらせ、やがって」


男も、僕と同じ感想のようだ。怪我の状態を考えれば、多勢は決した。

だが、それでも、僕は突破口を探している。諦めたところで、楽に死ねるのかもわからない。男のマナと技には見事にやられたが、何か一手、泡を食わせてやりたい。そうだ・・・せめて、負傷をさせて国から逃げづらくさせるくらいはしたい。


「ジャヴさん・・・ララベルさん、ジュリアさん。後は頼みます」


僕は右手のナイフをもう一度突き出す。投げつければ、運が良ければ負傷くらいはさせられるだろうか。


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