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アーツ・ホルダー  作者: 字理 四宵 
第十三章 刺客
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刺客 -9

腕を振らず、体を捻らずに繰り出すことができる剣戟は、単純な速度だけなら剣精のものよりも早い。制空権は前方に限られているが、侵入すれば切り刻まれるのが目に見えている。

傷を負っている僕は、身軽に動けないまでも、なんとか回り込んで活路を見出そうとしていた。

狭い病室を、互いに見合いながら回り続ける。正面で対峙するのを避けようとする僕と、距離を詰めたい男と、間合いの交換が静かに行われていた。

すり足で横に動いた僕の足に、突然刺すような痛みが突き抜ける。


「うっ!」


反射的に、痛みで飛びのいてしまった。

足元を見ると、靴が赤くにじんでいる。足の甲と指を、落ちていたバラの花びらが切ったようだ。

男の手を離れてしばらくたった今、すべてのバラの花びらは硬質を失い、再び自然のままに柔らくなったと思っていた。

だが、男が放った花びら全てにはマナが通っていなかったようで、数枚にだけ強くマナが残っているようだ。


(しまった・・・罠か!)


男を見ると、乱ぐい歯を見せてにやりと笑う。何よりもまずいのは、足に怪我を負ったことを、相手に気づかれてしまったことだ。


「ほ? ほほ? これで、ちょこまかと、動けなくなったかな?」


男は、満面の笑みで手を叩く。

僕は、無言で足首を回し、軽く床を蹴る。残念だが、男の言うことは事実だった。


「へへ、つ、強がってる、な。痛くて、ろくに、走れない、のに!!」


走れないだけではない。

負傷した足では、靴を脱いでもナイフを掴めそうにない。負傷したのは左足だが、逆の足でナイフを掴んでも、左足で地面を踏みしめることは難しいだろう。つまり、僕の唯一の技が使えないのだ。背中に冷や汗が伝う。

ナイフを長めに構え、なるべく距離をとろうとするが、ススキの払いにナイフを飛ばされそうになって、慌てて引っ込める。

体力、マナの量、負傷。刻一刻と、僕と男の戦況は差が開いていく。何か、逆転の手立てはないか。

アーツを封じられた今、僕は胃の中で暴れる絶望と戦いながら、戦術を考えていた。

男からすれば、あと一手だ。射程内に入り、動きが鈍い僕に対し滅多切りを続ければ、いつかは防ぎきれずに攻め勝つ。それをしないのは、僕がアーツ・ホルダーの候補となる技を持っていると知らされているからだろう。

アーツが発動する条件になれば、戦況が一気にひっくり返り得る。実際には僕のアーツはすでに発動できなくなっていたのだが、男が、それを知る由はない。

結果的に、その警戒がギリギリ僕の命を肉体にとどめていた。

二人の呼吸音が、動静交えて静かな部屋を揺らす。間もなく、そのリズムが一致する時が来る。

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