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アーツ・ホルダー  作者: 字理 四宵 
第二章 傷が癒えるまで
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傷が癒えるまで -3

僕が口を開くより先に、ララベルさんが一歩踏み出す。


「これは、カール少佐。ごきげんよう」


さっきまでの身内への口調とは、明らかに変わっている。口調は柔らかいが、雰囲気は拒絶のそれだ。

さりげなく僕に階級を知らせたのを考えると、相当警戒しなければいけない人物なのだろう。

カール少佐は、口ひげを撫でると、ララベルさんを一瞥する。


「ララベルと言ったな。確か、あのリンダと同級の」

「リンダの、一つ下です、少佐」

「ふん、女だてらに槍など振り回さず、あの樽女と一緒に看護師をやっていればいいものを」

「・・・」


何も言わずに表情を崩さないが、ララベルさんの周囲の雰囲気は穏やかではない。


「まぁいい。そんな話をしにきたのではない。やれやれ、女と話すとすぐ話題がそれる」


そういうと、少佐は今度こそ僕の目をとらえる。


「さて、レイル。まず、名前と年齢を言え」


有無を言わさぬ命令口調だ。ララベルさんが、こちらを見て無言でうなずく。


「レイル。16歳です」

「身長、体重は」

「170cm、57kg」

「年齢の割には、随分身長が低いな」


実を言うと、僕はまだ14歳だ。警備団に入るための最低年齢が16歳だったので、コボル警備長が年齢を偽って書類を提出している。貴族や要人でもない限り出生届は不要な時代だったので、当時、年齢をごまかす人間は多かった。年齢をごまかさなければ、僕は平均的な身長だ。


「・・・山育ちなので、都会の人と比べると・・・」

「・・・ふん、SSLに入った経緯を述べよ」

「父が、コボル警備長と昵懇の仲で、私も16歳になってすぐに警備隊に入る予定でした。予定通り書類を提出し、仮採用となりました。コボル警備長の最終採用面接を待つ間、山間部の呪いの濃度が上がっていることを調査してほしいと連絡があり、故郷の周辺を調べていたところ、大黒猿の襲撃に合いました」


ここまでは、スラスラと回答できた。こんな事もあろうかと、コボル隊長が筋書を描いてくれいていたので、暗記していたのだ。


「なるほど。それで、任務中に負った怪我ということで、入院中、というわけだな」

「・・・はい」

「・・・」


カール少佐は、相変わらず口ひげをいじりながら黙ってこちらを見ている。


「本当なら、大変嘆かわしい出来事だな。だが・・・私は、タイミングができすぎているのが、少し気になるのだよ。まるで・・・現地の少年に同情して、治療費を恵んでやるために、公費で治療を引き受けた・・・そんな、シナリオにも見えてくる」

「少佐、それは違います。彼は我々のスカウト後、正式な訓練を受けないまま負傷をしたのです。落ち度は、我々コボル隊にあります」

「黙っていたまえ。コボル隊に落ち度があるのは、明白だ。それが、訓練を受けていない者に任務を与えたこと、公費を使い現地の人間に治療費を恵もうとしたことの、どちらかなのかを、私は調べに来たのだよ」

「・・・!」


彼の目的が、ようやく僕にも理解できた。カール少佐は、僕に興味があるのではなく、コボル隊を追及するための材料にならないかを、調べに来たのだ。にやりと笑うと、的を絞った蛇のような目で、僕から目を離さずに小声でささやく。


「レイル。このままでは、隊の人間に迷惑がかかるかもしれないね。君が嘘をついてたというのが分かれば、コボル隊への処分は軽くなるかもしれない」

「・・・!」

「少佐!その誘導は、聴取から逸脱しています!」


ララベルさんが、抗議をあげる。僕の動揺を見て、まずいと判断をしたのだろう。僕は、初めて会うタイプの人間に戸惑っていた。故郷の人間が、皆いい人間だったとは思わないが、やることは良くも悪くも単純だった。正直なところ、弱さと人の好さにつけこむ少佐のやり方に、感動に近い感情すら覚えた。


「レイル。君に何があったのか、正直に話してくれると、話が早くなるのだよ」

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