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アーツ・ホルダー  作者: 字理 四宵 
第十三章 刺客
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刺客 -7

浅い眠りから覚めたのは、気が張っていたのと、傷の痛みのせいと、夜勤の習慣のおかげだろう。窓の外の冷え切った月は、まだ真夜中を示していた。

扉の向こうで、わずかな物音がしたのを聞きつけた僕は、とっさに枕元からナイフを取り出す。目覚めてすぐの胸の傷の痛みが、いい気つけになった。

静かに扉が開く。僕はベッドから降りて、足場のスペースのある場所へ移動した。


「あれ、起きて、た」


たどたどしい言葉で、男が驚く。扉の向こうで、血痕が見える。見張りの人はやられたのだろうか。


「子供は、夜は、寝るんだ、うん」


月明かりに目が慣れてきたところで、僕は男を見つめる。布で口元を隠してはいたが、僕がやられた場にいた人物と照合するのは、わけのない作業だった。


「あの場にいた・・・かごを持っていた男だな」

「えっ、いや、違う、けど、すごい、うん」


みえみえの嘘をつく。あまり策略家というタイプではなさそうだ。開きっぱなしの口、揃っていない無精ひげ、ずんぐりとした体格。見た目だけで言えば、純朴な農家というのが的を得ている。・・・だが、そんな男が暗殺という生業を成り立たせているということは、よほどの腕があるという証左だろう。

僕は、距離に悩んだ。先日の攻撃の謎は解けていない。だが、近づかなくては切ることができない。

アーツ・ホルダー同士の戦いは、技を先に出した方が勝つという剣精の言葉が頭で回っている。


「よ、よし、んじゃ、やるか」


農作業に取り掛かるような口ぶりだったが、男は覚悟を決めたようだ。肩に力が入り、大きく息を吸い込むと明らかにマナの質が変わった。


「ぬうん!」


男はベッドを掴んで力を入れると、そのまま持ち上げて僕の方へと振り回した。


「・・・!?」


僕は、男の大振りの攻撃を難なくかわす。怪我が痛むが、普段から剣精の閃光のような剣戟をかわしている身には、わけのないことだった。

ベッドを振り回す攻撃。それは、脅威となるような攻撃ではない。むしろ、隙だらけ過ぎて、逆に攻撃をためらうような動きだった。


「おおおお!」


大雑把な攻撃を数回凌ぎ、体勢が整ったところで、僕はある考えに思い当った。


(誘導されている・・・?)


男の攻撃は、すべて横に避けやすいように、斜め上から振り下ろされている。そして、僕の仮説が正しいとすれば、行き先は病室の入口。ちょうど、前後が入れ替わった状況になる。確証は持てなかったが、男がいたところに移動していると考えると、罠を仕掛けたという考えと符合する。

僕は、視線を静かに動かして行き先と思われる場所を確認する。


(草・・・? いや、藁か)


床を覆うほどではないが、病室には似つかわしくない幾ばくかの藁が床にまかれている。用途はわからない。だが、明らかに近づいてはいけないものだ。

次に振るわれたベッドを潜り抜けるようにかわし、今までと逆の方向へと移動する。


「え、えええ?」


予想外の動きだったのか、男は素っ頓狂な驚きの声を上げる。好奇心はあったが、むざむざと罠を食らうつもりはない。

男の動きを掴んできた僕は、相手の体勢が整わないうちに一気に距離を詰める。


「やあっ!」

「!?」


男が後ろのポケットから取り出したのは、やはり藁だった。


(またしても・・・藁!?)


目くらまし、やぶれかぶれ、パニック。色々な可能性が浮かんだが、僕のとった行動は「退避」だった。足にマナを流し急ブレーキをかけると、顔を防ぎながら全力で退く。

しかし、男の攻撃はわずかに僕へと届いていた。

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