刺客 -5
「レイル君は、お休みもたまっていたし・・・少し、ゆっくり休んでね」
僕はうなずくことができなかったが、正直なところを言うと、すぐにでも現場に復帰して、また修行とSSLの勤務の暮らしに戻りたかった。だが、ララベルさんの表情を見る限り、厳しい状況であることは、間違いなさそうだ。
「今回、この国のどこかに敵が潜んでいて、それらがレイル君を狙っていることがわかりました」
「・・・はい」
「ディランの遺した火種ね。おそらく、アーツ・ホルダー候補のレイル君と、アッシュ警備長が狙われるのは間違いないでしょう」
「・・・」
「SSL屈指の実力者のコボル警備長も、それで・・・」
「コボル警備長・・・」
僕よりも重傷だったコボル警備長のことを思うと、さすがに顔を上げられない。病室が静まり返り、沈黙が耳に差し込まれる。
暗い雰囲気の中、沈黙を破ったのは、ジャヴさんだった。
「あ、そうだ。レイル、寮から・・・これ持ってきたぞ」
そういうと、ジャヴさんは懐から布にくるんだ何かを取り出す。
「ジャヴさん・・・わざわざありがとうございます。なんですか?」
「へへ・・・入院の必需品ってやつかな?」
「着替えですか?」
僕は乱暴に包まれた布をほどく。中には、赤いナイフが入っていた。
「ん? なに?」
ララベルさんがのぞき込もうとするのを、僕はとっさに隠してしまう。
「なになに?」
「な、なんでもないです」
「ララベル・・・男には、入院生活で必要なものがあるんだよ」
「えっどういうこと?」
「余計なことを言わないでください!」
僕が慌てるさまを見て、ジャヴさんは満面の笑みを見せる。さっきまで真面目な顔で心配をしてくれた人と同一人物とは、とても思えない。
「ほら、ララベルにも見せてやれ。お気に入りなんだろう」
「ちょ、ちょっと待ってください。事前に入念な説明が必要な気がします」
「いいからいいから」
僕が左手でベッドの中に隠そうとした布袋を、ジャヴさんは強引に取り上げた。そのはずみで、むき身のナイフが床に転がる。
「あっ」
「あ・・・」
ララベルさんが、じっとそのナイフを見る。
僕は何も言わなかった。こうなった以上、もう何を言っても逆効果でしかないだろう。
「なんだ、剣暗君のモデルのナイフじゃない」
「えっ」
「えっ」
僕とジャヴさんは、同時に声を出す。言っていることは正しいが、予想と違うリアクションだった。剣精といい、女性からすればどうってことのないデザインなのかもしれない。
「護身用ってこと? ジャヴにしては気が利くのかな」
「違う! こいつは、これを使ってけツ」
ゴンという音がして、ジャヴさんの巨体が崩れ落ちる。モヒカンを割って手刀が突き出ている。
いつのまにか、ジャヴさんの後ろにリンダさんが立っていた。
「病室では騒がない!」
「リンダさん・・・」
「レイル君・・・また怪我したんだね。二回目ともなれば、容赦しないよ」
その言葉とは裏腹に、リンダさんの表情は愁いを帯びて優しい。・・・その分ジャヴさんを踏んでいるのが違和感があるような気がする。
「リンダ、念のためにレイル君にナイフを持たせてもいいよね」
「ナイフ!? 病室をなんだと思ってるんだい」
「お願い! 非常事態だと思って、見逃して!」
ララベルさんが、リンダさんの腕に縋りつく。二人分の体重がジャヴさんにかかっている気がするのだが、気のせいだろうか。
「わかった、わかった! 先生には黙っておくから、くっつくんじゃないよ」
「ありがとう! さすがリンダ!」