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アーツ・ホルダー  作者: 字理 四宵 
第十三章 刺客
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刺客 -5

「レイル君は、お休みもたまっていたし・・・少し、ゆっくり休んでね」


僕はうなずくことができなかったが、正直なところを言うと、すぐにでも現場に復帰して、また修行とSSLの勤務の暮らしに戻りたかった。だが、ララベルさんの表情を見る限り、厳しい状況であることは、間違いなさそうだ。


「今回、この国のどこかに敵が潜んでいて、それらがレイル君を狙っていることがわかりました」

「・・・はい」

「ディランの遺した火種ね。おそらく、アーツ・ホルダー候補のレイル君と、アッシュ警備長が狙われるのは間違いないでしょう」

「・・・」

「SSL屈指の実力者のコボル警備長も、それで・・・」

「コボル警備長・・・」


僕よりも重傷だったコボル警備長のことを思うと、さすがに顔を上げられない。病室が静まり返り、沈黙が耳に差し込まれる。

暗い雰囲気の中、沈黙を破ったのは、ジャヴさんだった。


「あ、そうだ。レイル、寮から・・・これ持ってきたぞ」


そういうと、ジャヴさんは懐から布にくるんだ何かを取り出す。


「ジャヴさん・・・わざわざありがとうございます。なんですか?」

「へへ・・・入院の必需品ってやつかな?」

「着替えですか?」


僕は乱暴に包まれた布をほどく。中には、赤いナイフが入っていた。


「ん? なに?」


ララベルさんがのぞき込もうとするのを、僕はとっさに隠してしまう。


「なになに?」

「な、なんでもないです」

「ララベル・・・男には、入院生活で必要なものがあるんだよ」

「えっどういうこと?」

「余計なことを言わないでください!」


僕が慌てるさまを見て、ジャヴさんは満面の笑みを見せる。さっきまで真面目な顔で心配をしてくれた人と同一人物とは、とても思えない。


「ほら、ララベルにも見せてやれ。お気に入りなんだろう」

「ちょ、ちょっと待ってください。事前に入念な説明が必要な気がします」

「いいからいいから」


僕が左手でベッドの中に隠そうとした布袋を、ジャヴさんは強引に取り上げた。そのはずみで、むき身のナイフが床に転がる。


「あっ」

「あ・・・」


ララベルさんが、じっとそのナイフを見る。

僕は何も言わなかった。こうなった以上、もう何を言っても逆効果でしかないだろう。


「なんだ、剣暗君のモデルのナイフじゃない」

「えっ」

「えっ」


僕とジャヴさんは、同時に声を出す。言っていることは正しいが、予想と違うリアクションだった。剣精といい、女性からすればどうってことのないデザインなのかもしれない。


「護身用ってこと? ジャヴにしては気が利くのかな」

「違う! こいつは、これを使ってけツ」


ゴンという音がして、ジャヴさんの巨体が崩れ落ちる。モヒカンを割って手刀が突き出ている。

いつのまにか、ジャヴさんの後ろにリンダさんが立っていた。


「病室では騒がない!」

「リンダさん・・・」

「レイル君・・・また怪我したんだね。二回目ともなれば、容赦しないよ」


その言葉とは裏腹に、リンダさんの表情は愁いを帯びて優しい。・・・その分ジャヴさんを踏んでいるのが違和感があるような気がする。


「リンダ、念のためにレイル君にナイフを持たせてもいいよね」

「ナイフ!? 病室をなんだと思ってるんだい」

「お願い! 非常事態だと思って、見逃して!」


ララベルさんが、リンダさんの腕に縋りつく。二人分の体重がジャヴさんにかかっている気がするのだが、気のせいだろうか。


「わかった、わかった! 先生には黙っておくから、くっつくんじゃないよ」

「ありがとう! さすがリンダ!」

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