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アーツ・ホルダー  作者: 字理 四宵 
第十三章 刺客
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刺客 -4

僕は雪の残る山道を、街に向かって駆け下りていた。背には頭から血を流した幼い弟を紐で結んでいる。


「もう少し・・・もう少しだぞ!」


背中の弟に向かって声をかけるが、返事はない。


「あとちょっとで・・・」


あれ? あとちょっとで、なんだろう。僕は、どこへ向かっているのだろうか。よくわからなくなって、立ち止まると、僕は背負った弟を改めて見る。


「にいちゃあ・・・」


涙を流す弟の額から、血が噴き出した。


「はやく・・・たすけてええよおおお」


やがて、弟の顔から、みるみる毛が生えてくる。幼い弟の顔が、あっという間に、大黒猿の顔に様変わりしていく。これは、おかしい。そう思いながらも、僕は弟から目を離すことができない。


「うう・・・あ、ああ・・・!」

「にいちゃあ・・・痛いよ・・・いたあああああいよおおお」


気が付くと、弟の重みがなくなり、背中が軽くなっている。さっきまで背負っていたはずの弟はいなくなり、体中に血の脂だけが残っている。

辺りに弟を探すが、ぼくがいるのは深い闇の中で、何も見えない空間だった。

天を見ると・・・まばゆい光が、網膜を刺す。

僕は、開眼した。


「レイル! 目が覚めたか!」


病室と、ベッド。僕は、この組み合わせを覚えている。

弟を山に置いてきてしまって・・・それから・・・? 

目覚めたばかりで、時系列が上手く組み立てられなかった。


「ジャヴさん・・・弟は・・・」

「しっかりしろ! お前は、街中で敵に切られたんだ」

「敵・・・?」

「レイル君、あなたは・・・血まみれで倒れたところを、運ばれてきたのよ」


ジャヴさんの隣には、ララベルさんもいた。目を真っ赤にしている。

そう、ジャヴさんとララベルさん。僕は彼らを知っている。一緒にSSLで働く仲間だ。少しずつ、頭がはっきりしてきた。体を動かそうとして、胸の傷が痛むことに気が付く。


「この傷は・・・僕は・・・?」

「今は、おとなしくしてろ、な?」


慌ててジャヴさんが僕を寝かそうとする。


「ほかに怪我人は・・・」

「いないわ。あなただけ」

「僕だけ・・・」


それは喜ぶべきことなのだろうか。被害が少ない反面、僕一人が個人的に狙われたという可能性が高くなる。


「この病室の周りは、警備してもらっているから・・・今は、ゆっくり休んでね。あ、そうだ。リンゴ食べる?」


妙にやさしいララベルさんを見ると、出会ったばかりのころを思い出す。同僚としてではなく、家を変異呪種に追われた子供として扱われていたころだ。

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