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アーツ・ホルダー  作者: 字理 四宵 
第十三章 刺客
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刺客 -2

次の日、いつも通りジャヴさんと王宮にいる剣精の元へ向かう。

昨晩からずっと、武器番について考えていた。ララベルさんに反対された理由は、よくわかるし、筋が通っている。僕としても、同意するしかない。

しかし、能力が足りないと宣言されるのは、やはり心安らぐものではない。悔しさが胸に根付いてしまった。


「お、着たな」


剣精は、いつもと変わらずに明るい様子だった。僕は会釈をして特訓の準備をする。

志位さんたちは、どのようなアーツを剣精に見せたのだろうか。予想はしていたが、それを確かめるすべはない。

剣精に志位さんらのことを聞くのはフェアではない気がしたが・・・どうしても気になったので感想だけ聞いてみた。


「ああ・・・堪能したぞ」


剣精は、満足げにほほ笑む。その表情がすべてを物語っていた。

三人が同時にアーツ・ホルダーになったのか。どのような技だったのか・・・知人になった人たちのことなので余計に気になったが、さすがにこれ以上は聞けなかった。

僕も後れを取ってはいられない。色々なことに悶々としながら、剣精と特訓をする。

いつも通り、夜明けがきたころ。僕は、床にへたり込むと、膨らんだ胸の気持ちをこらえきれなくて剣精に話をしてみようと思った。


「あの・・・」

「武器番の話か」

「えっ・・・? どうして、それを・・・」

「そろそろだと、思っていたよ。珍しく、今日は身が入っていなかったしな」

「・・・剣精は、どう考えますか」

「ふむ・・・」


剣精は首をかしげる。


「私が師に弟子入りを願ったとき、私と同じように師の元で剣士になりたい人間が100人以上いた。ある日、師は弟子志願者を一堂に集めて、次の日に選抜を行うと言って、志願者たちを帰した」

「それは・・・」

「レイルなら、どうする?」

「まずは、真っ先にその場から逃げます」

「私も同じ行動をとった。おそらく、師は次の日の戦いを見たいのではなく、それまでにどうするのかを見たかったのだと思う」

「次の日は、どうなったんですか」

「言われた通りに広場に集められ、一斉に戦うよう言われた。私は、事前に準備していた通り序盤はひたすら逃げ回って、複数相手になるのを避けていたが・・・結局は後の方で捕まって、やられてしまった」

「だけど・・・弟子入りはできたんですね」

「ああ。師は、生き残る弟子が欲しかったんだな。今ではその気持ちもわかる。レイルは賢いし、マナの使い方も上手い方だろう。才能があるがゆえに、つまらない戦いで事故によって命を落としてほしくない気持ちはある」


剣精は僕を見つめた。感情の希薄な、静かな目線だった。


「任務、国のため、名誉、誰かを守る・・・色々な動機の元に死んでいく者たちを見たが・・・生き残ったやつが、結局は一番強いと思うぞ」

「わかりました・・・少し、考えさせてください」


自分の心がよくわからずに駆け出す僕を、剣精は黙って見送った。


「我ながら、説得力のないことよ。師の真似事など、慣れぬものだな・・・」


街の中。人込みでごった返す朝市の中を、僕はぼんやりと歩いていた。ジャヴさんとは別行動をとって、少し街を歩くことにしたのだ。

武器番のことを考えるが、考えが上手くまとまらない。青物屋でリンゴを買って、齧るでもなく手遊びの材料にしていた。

僕は、誰かに賛成をしてほしかったのだろうか・・・それも違う気がする。戦いへの恐怖、活躍をしなければいけないという、焦燥感。色々な経験のない感情が、胸の中で渦巻いている。

気持ちがふわふわと落ち着かず、リンゴを握りしめる。ジャヴさんなら、リンゴを握りつぶせる。僕の手では・・・指が食い込むこともなかった。


「レイル! 夜勤の帰りか? 眠そうだな」


街の人に話しかけられ、僕は会釈をして返す。夜勤ばかりなので、ペースは遅いが、少しずつ顔を覚えられてきた。それだけで、少し気分が晴れる。


「少しずつ・・・一歩一歩頑張るしかないか」


ため息をついて、気持ちを切り替えようとしたところで、胸に熱いものを感じた。感情がもたらすものではなく、物理的な熱さだ。


「ん?」


胸に手を当てると、その手のひらに線を書くように血が付いている。他の誰のものでもない、僕の血なのだが、痛みを感じていなかったので、現実味がない。

縦に切られた胸から、どんどんと血が溢れ始めた。

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