東の剣士 -13
ウさんが前に踏み出すと、手で円を作ってして前に突き出す。
「この技のコツは、息の吸い方ではなく、息の吐き方だ」
「吐き方・・・」
「特に呼吸が苦しい時ほど、人は呼吸が早く浅くなる。だが、一度胸の中を空にした方が、新しい空気を取り入れられるんだ。論より証拠だ。やってみよう」
ウさんは、深く息を吐きだした。
僕たちが考えるよりもさらに長く、息を吐き続ける。みるみるうちに胸が引き、体が細くなっていくように見える。やがて、息の音が変わり、口から吐き出される音はどんどん細くなっていく。
「お、おい・・・大丈夫か?」
ジャヴさんが心配して声を出す。
「心配いりませんよ」
サさんが、それを制する。志位さんも、腕を組んでみている。
ウさんの元々の肺活量も多いのだろうが、人間の息がここまで吐けるのかと驚かされる。
「そろそろですよ」
サさんの言葉を待っていたかのように、ウさんは大きく息を吸った。細くなった体に、文字通り息が吹き込まれていく。
「ハッ!」
脇を閉めて気合いを入れると、ピシリと空気が張った。ウさんの体にみるみるマナが満ちていく。
「おお・・・」
僕とジャヴさんに、思わず感嘆の声が上がる。ウさんがわかりやすく全身にマナを出しているのだろうが、全身から立ち上る輝かしいばかりのマナの気炎には、人を圧倒するものがある。
「マナを消しつつ息を吐き、一気に息を吸うタイミングで再びマナを全身に巡らせる。キ・・・いや、マナの消費は多いが、これで使えるマナの量は一時的に跳ね上がる」
「限界まで出し切ったと思った後の、最後の一太刀が出せるぞ」
志位さんが、得意げに補足する。
「若は、それでよく倒れるでしょうに」
「うぐ」
もう一度息を吐くと、ウさんのマナは落ち着いていく。
「では、実際にやってみるといい。マナの切り替えに少しコツがいると思うが・・・何度かやれば、コツがつかめると思うぜ」
「はい」
「おう」
僕とジャヴさんは、同時に息を吐き始める。
「普段の限界を超えて吐き続けるんだ。胸から出し終わったら、次は腹筋を使って腹の中から出し切れ」
言われた通り、口をすぼめて肺腑から空気を絞り出す。ウさんの言う通り、最後は腹から絞り出すような感覚だった。
「少し止めて・・・マナは切ったな。では、息を吸い終わったらマナを呼び出せ!」
一気に肺に空気が入るのと同時に、体のマナを呼び出す。
途端に、背中を押されるような強い揺れを感じる。意識しないうちに、体が前かがみになっていく。
「これは・・・?」
「レイル氏はできたな。体が前かがみになるのは、腹筋に力が入りすぎたんだな」
そう言われて、僕は姿勢を正す。確かに、体に一時的にマナがみなぎっているのがわかる。
「一発でできるとは、飲み込みが早いな。素直でいいことだ」
「うおおおらあああああああ!」
隣にいたジャヴさんのほうから怒号のような声が聞こえる。
「あ、ジャヴさんもできたんですか」
「いや、あれは声でごまかしているだけだな」
「・・・」