東の剣士 -12
夕方前。夜勤としては早起きをした僕とジャヴさんは、あくびを噛み殺しながら約束通り神殿の前で待っていた。
「ジャヴさんも習うんですね」
「おうよ。お前ばっかり強くなられてたまるかっての」
「技とか強くなるとか、あんまり興味がないのかと思ってました」
「そんなことはないぜ。強くなるに越したことはないからな」
「近距離も鍛える気になったんですか」
「うーん、近距離って怖いから苦手だけどな」
遠くから手斧を高速で投げてくる男の方が、よっぽど怖いと思うのだが・・・。
そんな話をしていると、例の三人組が神殿の階段を降りてきた。
「ぬ・・・あれは・・・」
ジャヴさんが、鋭い眼光をその目に光らせる。
「どうしたんですか」
「あいつら・・・落ちたな」
「え、試験にですか。わかるんですか」
「俺クラスになると、審査に落ちた人間のやるせない表情がよーくわかるようになるんだ」
どんな経緯を経ると、そのクラスになるのだろうか・・・などと考えたが、口にしないでおいた。
「おーい、君たちー!」
ジャヴさんは大きな声を出して手を振って、嬉しそうに声をかける。
向こうもこちらに気が付いたようで、弱弱しく手を上げる。確かに、元気がない。
「けちょんけちょんにされたんだねっ!」
「・・・お、おお。待たせたようだな」
「いいってことさ。大丈夫、そういうこともあるよ! さあ、悲しい気持ちがあれば、受け止めてあげるよ。次の試験に生かしてほしいんだ!」
目を光らせるジャヴさんを、ウさんは片手を上げて制する。
「ん、言っておくが試験には受かったぞ」
「えっ」
僕とジャヴさんが、同時に声を上げて驚く。いつのまにか僕もジャヴさんの言葉を信じてしまっていた。
「でも、妙に意気消沈しているように見えますけど」
「ああ。アーツは受かったが・・・結局、一太刀お見舞いすることもできなかった」
「世間は広いのだと知りました」
「僕、自信あったのに・・・」
同じ首の角度で、並んでうなだれる三人に、僕はどう声をかけていいのかわからなかった。
「あの、またの機会でもいいですよ」
「いや、そういうわけにはいかん。我々は異国の人間だから、貸しは早めに返さないといかん」
そう答えたのは、ウさんだった。
「よし、では少し人気のないところへ行こうか」
「はい」
僕とジャヴさん、そして一行は、町はずれの空き地に移動すると、ウさんを前にして二人で並ぶ。
「誤解のないように言っておくが、今から教えるのは呼吸回復法と思ってくれればいいだろう。キは使えるな?」
「キ?」
「ウ、この国では、マナといいます」
「お、そうだった。では、マナを体に集中してみてくれ」
僕たちは、言われたとおりに体にまんべんなくマナを張り巡らせる。
「うむ、やはりレイルの方が筋がいいな」
「やはりってなんだよ!」
ジャヴさんが抗議の声を上げるが、拾われずに流される。
「この技は、原理としてはシンプルだ。まずは俺がやってみせよう」