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アーツ・ホルダー  作者: 字理 四宵 
第十三章 東の剣士
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東の剣士 -11

「ウ! 助けてくれ! このままだと、サに顔の形を変えられてしまう!」

「え!」


物騒な単語が出た。思ったよりもスパルタなようだ。場合によっては、サさんを止めなくてはいけないのかと、僕は少し焦る。


「まぁ・・・少しくらい・・・」


ウと呼ばれた男は、息を整えつつ髪を撫でつける。短い毛に汗の弾が乗って弾ける。


「変わってもいいんじゃないかな!」


キラリと歯を見せて笑う。


「そ、そんな・・・」


滑るような足運びで、サさんが志位さんの背後に音もなく回り込む。


「あ、あわわ・・・」

「若、覚悟を」


サさんの手が、影のごとく静かに動く。


「ギエエエ!」


サさんは志位さんの顔を餅のように引っ張り始めた。怪鳥のような鳴き声・・・いや、泣き声が辺りにこだまする。


「なんだ、顔の形が変わるって・・・」

「そういうことか」


僕とジャヴさんは、ほっと胸をなでおろす。とはいえ、顔から色々なものを出しながら泣き叫ぶ志位さんの表情を見る限り、優しい罰ではなさそうだ。


「なるほど、口が閉じられないから、涎が出るんだな」


ジャヴさんはそれを見ながら、腕を組んで冷静に分析している。


「あいつ・・・いや、名前は出されていたな。サからも礼があったかと思うが、俺からも重ねて礼を言わせてもらう」

「いえ、これが仕事ですので」


深々と頭を下げるウさんを僕は慌てて制する。


「思えば、あいつには苦労させられっぱなしだったが・・・」

「それ、次は昇龍の型ですよ」

「あびゃあああ!」

「今回、あいつがいなくなって、少し自分が今の境遇に甘えていたのが分かった」

「はい、上がってー下がってー昇り龍ー」

「うえええええ!」

「少し気を引き締めないといかんな。大事になる前にわかったのは幸いだった」


ウさんが何かいいことを言っている気がするのだが、その後ろの志位さんの様子が気になって頭に入ってこない。


「君たちに何か、礼をしたい。できることがあれば、なんでもいってくれ」

「いえ、個人的に対価をもらうものではないですので」

「モノやカネをもらったら怒られるんだ。気にしないでいいぜ」

「しかし、俺たちの気が済まない」

「そうですね・・・あ、それじゃ、こういうのはどうですか?」

「え、レイル!?」


ジャヴさんが驚いたように僕の顔を見る。ウさんも、期待を込めた目で僕の方を見る。


「東の国には、呼吸をコントロールする技があると小耳にはさみました。こちらでは珍しいので、よかったら、それを教えていただけますか」

「呼吸を・・・息吹のことか」


ウさんは、サさんの方を見る。サさんは、視線を合わせずにうなずく。


「いいだろう。さほど珍しい技でもないから、教えるよ。ただし、我々のアーツ試験の後でいいかな」

「もちろんです。ありがとうございます」


僕たちは、アーツ審査の後、夕方に約束を取り付けた。一段落ついたところで、ジャヴさんが僕の腕をつつく。


「おい、交代の時間だぞ」

「あ・・・」

「ぼやぼやしていると、ララベルが飛んでくるぞ」

「そうですね。急ぎましょう」


僕たちは東の剣士たちに別れを告げ、交代の場所へと向う。サさん、ウさん、地面に突っ伏した志位さんが、手を上げて僕たちを送った。

彼らは、アーツ審査に受かるのだろうか・・・。嬉しそうな剣精の顔を思い浮かべながら、走った。

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