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アーツ・ホルダー  作者: 字理 四宵 
第十三章 東の剣士
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東の剣士 -8

「職人ってのは、ハードルが上がると喜ぶものだからな。無理難題を言っておくくらいがちょうどいいんだぞ」


聞く人を選びそうな台詞を、剣精は胸を張って言う。

自分の武器のデザインを考える・・・。山の田舎暮らしじゃなくても、考えもしないことだろう。さらりと言ってのける剣精は、今までどんな経験をしてきたのだろう。


「わかりました。考えてみます。また相談させてもらうかもしれません」

「ああ。それでは、訓練、訓練。今日は、脱力のコツを教えようかな」


ここでようやく、普段の特訓が始まる。剣精はいつもと変わらない調子で、嬉しそうに剣を振り回している。剣の魅惑的なデザインについては、特に何も言及されなかったので、ほっとした。


朝までいつも通り特訓を行う。いつも通り、厳しくて、つらくて、楽しい時間だった。

空が白んで、明け方になると、体力の限界だった僕は倒れるように床に寝転がった。ひんやりとした石の床が気持ちいい。


「明日は・・・東の剣士のアーツ審査ですね。何時からなんですか?」

「夕方だな。気になるのか」

「ええ、実際に会った人たちなので。三人というのも、気になりますし」

「ふ、心配してくれているのか?」

「うーん、剣精が負けるところは見たくないですけど、苦戦する処は見てみたいです」


思ったままを正直に答える。


「はっはっは。よくわからん心理だな。私も、自分が苦戦するのか楽しみにしているよ」

「・・・頑張ってください」

「誰に言っている。レイルこそ、ちゃんと休むんだぞ」

「はい」


時間になったので、王宮を後にする。

街のパン屋の煙突から、煙が上がっている。相変わらず寒さは厳しいが、夜の物とは違う、澄み切った空気を感じるこの時間帯が好きだった。

あくびをしながら歩いているジャヴさんと、朝焼けの中を一緒に帰る途中。僕は、前方の小道に人影を見つけた。本来なら、この辺りはまだまだ人が出歩くような時間帯ではない。


「あれ・・・?」

「ん? どうした」


前方に、見覚えのある女性の姿が見える。出来立てのパンを片手に、周りの建物をキョロキョロと見比べながら歩いている。僕もSSLとして多少経験を積んだからこそ、わかる。あれは・・・


「迷子だな。なんだって、早朝に」


ジャヴさんが後ろからつぶやく。僕も頷くが、問題はその女性が昨日会った、東の剣士の一人だということだ。


「あの・・・」


僕が声をかけると、ビクッと跳ね上がる。


「ひっ」

「あ、僕は、昨日あったSSLの人間です」

「あ・・・昨日の・・・」


僕のことを思い出したのか、少し

昨日、三人でいた時は元気な印象だったのだが、今は借りてきた猫のようにおとなしくなっている。


「ええと・・・迷子に・・・なりました」

「あ、はい。よくあるので、大丈夫ですよ」

「うう・・・」


迷子という事実を認めたくないのか、悔しそうに頷く。


「た、頼む! ウとサには黙っていてくれ!」

「ウとサ?」

「昨日会った二人組だ! 買い食いをしているうちに抜け出して、迷子になったなんてばれたら、どんな目に合うか・・・」


ガクガクと、体を震わせておびえる。


「だ、大丈夫ですよ。宿まで案内するだけですから」

「宿・・・」

「泊まった宿の特徴はわかりますか」

「・・・宿の前に、猫がいた」

「・・・建物の特徴とか、名前とかは・・・」

「そういうのは、サがやるから・・・」


「レイル、その子は・・・?」


僕の陰から、恐る恐るジャヴさんが顔をだす。陰といっても、まったく巨体を隠しきれていないのだが。


「ええと・・・」


僕は、ちょっと考え込む。海外の人ということもあるし、アーツ審査を受けることはあまり知られたくないのだろうか。


「昨日、街で偶然知り合いになった人です」


これでいいかと、ちらりと振り返ると、思いっきり親指を立てて笑顔になっている。これでは、ばれるのも時間の問題のような気がするが・・・


「ジャヴさん、なんで陰に隠れているんですか」

「俺は人見知りなんだよ!」

「いつも、道案内とかしているじゃないですか」

「あれは仕事だから大丈夫なの!」

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