東の剣士 -6
ジャヴさんの奇声で目が覚めた僕は、ベッドから飛び起きる。
「な、なんですか。敵ですか。笛ですか」
辺りを見回すが、頬に手を当てているジャヴさん以外におかしなところはない。いつも勝手に部屋に入ってくるので、ジャヴさんがいることには驚きはなかった。
「レ、レイルが・・・新しいプレイに目覚めている・・・」
「・・・?」
僕は、ジャヴさんの指さす方を見る。昨日買った赤いナイフが、僕の枕元に置いてある。半分寝ぼけた頭で、状況を理解する。
「ああ・・・これは、違うんです。グリップがよくて・・・」
「うわあああ! なんか上級者っぽいこと言ってるううう!」
だんだんと目が覚めてきた。冷静に考えると、僕のアーツに関係するところなので、ナイフを買った理由を言うのもよくない気がする。
「ジャヴさん、このナイフのことはですね。その、あまり多くを言えないですけど・・・アーツにかかわることなので、内密にしていただけると助かるんですけど」
「アーツに・・・?」
「はい。確かに変わった形のナイフですけど、買ったのには訳があるんです。だから、皆には・・・その・・・変な風に、言わないでくださいね」
ジュリアさんやララベルさんに知られたら、どんなことになるか・・・考えるだけでも恐ろしい。
この通り! と、手を合わせる僕に、ジャヴさんは急に真面目な顔をして向き合う。
「レイル、お前、わかってないなぁ・・・」
「え?」
「俺は、本当のことなんてどうでもいいんだよ。ただ、俺みたいなやつに、そのエロいナイフが見つかった時点で、面白おかしく言いふらされるだけなんだ・・・あきらめろ」
「ぐ・・・」
その通りだが、言いふらす本人に言われると無性に腹が立つ。
結局、ジャヴさんに口止めを約束させることはできなかった。約束をして裏切られるよりは、マシだと思って、僕は覚悟を決めざるを得なかった。赤いナイフは、しばらくは鞘ごと布にくるんで外からは見えないようにして持ち歩くようにして、持ち手も隠すような鞘を作ったほうがいいかもしれない。
夜勤が始まり、いつも通り訓練のために王宮の剣精の元へと行くと、剣精が入口のところまでニコニコしながら迎えに来た。こころなしか、足取りも軽くなっていて、落ち着かない様子だ。
「あれ、今日は、やけに上機嫌ですね」
「上機嫌? そうか? そう見える?」
「ええ、まぁ・・・」
僕はもうナイフのことがバレて、さっそくからかわれるのかと思って身構える。
「実は明日、強そうなやつらのアーツ審査が入っててな。どんな技が出てくるか・・・今から楽しみでたまらんのだ」
「やつら? もしかして、その人たちって・・・」
僕は、ピンときて昼にあった人たちのことを話す。
「あぁ、そいつらだろうな。東の国の人間だ」
「やっぱり・・・。剣精は、もうあの人たちと会ったんですか?」
「いや。だが、昔あの国の人間が審査を受けに来たことがあってな。そいつは文句なしの合格だったよ。だから、明日も楽しみなんだ」
「へぇ・・・」
「興味があるのか?」
「ええ。東の剣士って、何か違うんですか」