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アーツ・ホルダー  作者: 字理 四宵 
第十三章 東の剣士
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東の剣士 -5

「ああ、それは剣暗君のシリーズだね」

「剣暗君・・・って、『剣の王様』のことですか」

「ああ、子供はそう呼ぶね」


僕は、母親に教わった剣の王様の話を思い出す。


昔、あるところに豊かな国があった

緑も川も動物にも恵まれた国で

剣が大好きな王様がいた

剣が好きすぎて国内外の剣を高値で買い取り続けた王様は

百姓も商人もほったらかしにして毎日剣を眺めて過ごし

ついに財政が傾いて国から追放されたという


「剣の王様って、実在していた人物だったんですか。てっきり、寓話の中の人物かと思っていました」

「うーん、剣暗君が実在していたかは、諸説あるけど、剣暗君のシリーズは俺の祖父が子供のころから存在しているよ」

「そうだったんですか」

「君が持っているのは、シリーズ後期のものだな。質実剛健を良しとした初期のものと違い、後期は造形やコンセプトが突出したものが多いのが特徴だ」


僕は、手に持ったナイフをまじまじと見つめる。確かに、ありふれたとは言い難いデザインだ。

赤く塗られた持ち手は女性の体のシルエットになっていて、グリップにくびれを作っている。鍔の部分はバストや鼠径部も細かく作っていて、なまめかしい。実用よりも装飾品の意味合いが強いのだろう。

だが、魅惑的なウエストのカーブは、僕の目には普通と違った魅力として映った。


(このナイフは・・・きっと、足に挟みやすい!)


「このナイフ、いくらでしょうか」

「えっ・・・気に入ったのか。そういうのは、もっと大人になってからのほうが・・・」

「ダメですか?」

「いや、ダメじゃないけど、現役のSSLがスペックや機能美ではなく、美術品に近いものを選ぶなんて珍しいなと思って。ただ、さっきも言った通り、ジャンク品に近いから、扱いは気を付けてくれよ」


店員は僕の手からナイフを受け取り、しげしげと眺めた。


「うん、古いものだから頑丈にはできていると思うが、保証はできないよ」

「大丈夫です」

「うちは売れれば、なんでもいいんだが・・・もっと丈夫でいいものがあるよ」

「それは、また来た時に」

「そうか。なら、鞘代は勉強させてもらうかな」


こうして、僕が生まれて初めて買ったナイフは、女体をモチーフにしたもので、かつ足の指に挟むのが目的で購入されたものとなった。

店で買い物をするということになれていない僕は、高価なものを自分で買えたという達成感と、いいものを手に入れたという喜びで、うきうきと店を後にする。

店の外は人通りも増えて、すっかり賑やかになっていた。

まだ昼にはなっていないが、そろそろ寝ないと、明日の夜勤に差支えがあるだろう。

僕はきた道を引き返すことにした。


寮に帰り、自分の部屋に入ると、買ったナイフを鞄から取り出して、ひとしきり眺める。

予想通り、足へのフィット感もいい。手と同じように軽く握っても、足から離れにくく足の親指と人差し指が疲れない。


「うんうん。よし」


満足した僕は、枕元に今日買ったナイフを置いて、床に就いた。枕元に自分の好きなものを置いて眠るのは、楽しいものだ。子供のころ、誕生日に父親からチョークを買ってもらったことを思い出しながら、僕は幸せな気持ちのまま眠りについた。


翌日、同じ夜勤のジャヴさんが、僕を起こしに部屋にやって来た。


「おす、レイル! 今日は仕事だぜ・・・って、うわああああああああ!」

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