東の剣士 -3
「若、アホですか。異国の我々に、そんなことを言えるわけがないでしょう」
僕の思ったことがそのまま右側の人の口に出された。
「まさか、心を読んだ・・・!?」
「ん?」
「ん?」
「誰がアホだ! こら!」
思わず口走ってしまった戯言に両脇の男たちが反応する一方、真ん中の女性は怒られたことに憤慨していた。
右側の男性が、暴れる女性を担いで、細い道へ歩き出す。人込みを避けているのだろう。僕は、一応それについていく。
「冗談です。僕が思ったことが、そちらの人の口から出たので・・・」
「異国の人まで! 僕をアホと!」
「そうか・・・」
「まぁ、不自然ではないな」
うおおお! 降ろせ! と、獣のような抗議の声をあげる女性を降ろして、僕たち三人は意思の疎通を図る。彼女は、顔だちは幼さが残るが、実際のところは何歳なのだろうか。背が低く華奢な姿は、僕より年下にも見えるし、よくわからない。
「それでは、極力、もめ事のないようにしてくださいね」
「われわれもそれを望んでいる」
「あぁ、本当に望んでるんだぜ」
僕が改めて注意をすると、男性二人にしんみりとした空気が流れる。
「ええと・・・では、失礼しますね」
「うむ。騒がせてすまなかった」
「おい」
「む? ・・・あぁ。そうだな」
男性二人が、アイコンタクトをとってうなずく。先ほどから見ていたのだが、彼らは恐ろしいくらい意思の疎通がとれている。なにかのチームなのだろうか。
「尋ねるが、神殿の場所はわかるか」
「神殿・・・ですか?」
「ああ。剣の精がいるという神殿なのだが」
「剣精の神殿ですか!」
僕は三人をまじまじと見つめる。剣精のところへ用事があるということは、アーツ審査を受けるということだろうか。この中の誰か・・・いや、もしかすると全員かもしれない。
「その顔は、知っているようだな」
「はい。よければ、ご案内しますが」
「いや、それには及ばない。もう少し街を見ておきたいし」
「うちのに何か食わせないとならない」
「食べ物」
「そうですか、それでは・・・」
僕は、現在地から神殿までの道を説明する。
「ちなみに、剣精に会うにはどうしたらいいのだ? 試練を受けたいのだが」
「試練の受付ですか」
答えようとして、言葉に詰まる。よく考えたら、僕はカール少佐の命令でアーツ審査を受けただけで、正規の手順を踏んだわけではなかった。
「神殿の坂の前に、兵士がいますので、その人に聞けば多分わかると思いますが・・・」
「そうか。色々とありがとう」
長身の男は礼を言って、振り返り、立ち去るそぶりを見せた。
次に僕が見たのは、不可思議な動きだった。
まず、女性が先頭を歩き、僕から見て右側にいた男が左側後方につき、僕から見て左側にいた男が右側後方に位置して歩き出す。つまり、女性が進路を逆転させたと同時に、男性二人も位置をクロスさせていたのだ。
女性は、それに気づいているのかいないのか、かまわず先頭を進む。
(今のは・・・?)
僕の視線に気づいたのか、今は右側にいる色黒の男が振り返ってニヤリと笑う。